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一匹狼とボス犬②
プラプラ歩きながら校舎の裏手を歩けば、一角に見た通りのヤンキーな奴らが座り込んで会話しているのが見え、治安悪と思いつつ素通りしようとしたのが目敏く見付かったのだろう、ヤンキーたちが「おうおう」なんてイマドキそんな呼び掛けしてんの?
手入れの行き届いてねえ脱色した髪やらが目の前を塞ぐように立ちはだかった。
「なんだ礼儀がねえなあ、1年か?」
「あ、おれこいつ知ってるわ、1年の超エリートくんの義理のオトウトくんだろ? ポンコツって言う」
「へー? お兄ちゃんは血統書持ちのお利口ちゃんなのに、お前は雑種なのかー?」
とポンポン好きに言ってくれてどうもな、この学校の生徒、犬に喩えんの好き過ぎじゃねウケる。
思いつつ口に出す気にも反応する気にもなれず、ご機嫌なヤンキーたちはそんなオレの反応が気に食わなかったのだろう、「おい、聞いてんのか?」と胸ぐらを掴んでくる。
テンプレヤンキーか?
「チビでポンコツの癖に生意気だぞてめえ」
「お兄ちゃんに助け呼ぶとかしてみろよ」
「……ああ、何だ? おたくも昌磨のファン?」
オレをイジメて昌磨を呼び出そうつー魂胆なの、それはそれはお疲れ様だ。
昌磨のファンは面倒な奴が多いわ、と無表情を張り付けてたそれを崩し、口角が上がってしまう。
「そんなに昌磨に会いてえならクラスに行くなり下駄箱にラブレター入れるなりしろよ、クソ面倒臭えな」
「ああ!?」
「でもま、照れ屋なあんたに良いこと教えてやっけど、昌磨の好みじゃねえと思うのでツラ磨き直したら?」
「な、に……テキトウ言ってんだ、てめえ!」
激情した昌磨のファン(仮)はオレに向かって大振りに拳を振るおうとするので余裕で躱せんなと思うが、ファンの仲間たちが「おーっと」「動くんじゃねえよポンコツくん」と両サイドを拘束してきた。
趣味悪、と思いつつ動けねえので、仕方ねえか1発食らい貰って動けないフリでもすりゃあ大人しくなるでしょと受け流すタイミングを測っていた、その時だ。
「おう、楽しそうなことしてんじゃねぇか」
と、一声。
その別段大きくもねえのに通る声にヤンキーたちは、ビタッなんて効果音がお似合いな一時停止さながらに動作が止まり、顔色を青ざめて声がした方へ視線を向ける。
「に、西野サン……!」
西野、と言う何かヤンキーが逆らえねえ奴が来たらしい、拘束してやがるヤンキーの脇からどんなゴリラが出てきたんだと覗けば、すぐに目が合う人物はゴリラじゃねえわ。
長身の茶髪のイケメン、なーんかどっかで見たことあんな、最近。
「こ、これはその、礼儀がなってねえ後輩に指導してただけで、なあ!?」
「そうっすよ、このチビが生意気で……!」
「へー、そう」
西野と呼ばれた男は頷いてから大股で歩み寄り、ヤンキーたちの傍まで来て全員に視線を向けて「指導ねぇ」と笑った。
「こんな大掛かりにやってたら、逆にお前らが指導されるぜ? 騒げばすぐに生徒会の犬どもが駆け付けんだろ」
「むぐ?」
そこで西野とやらの右手が伸びてきて口を塞がれ、外そうにも拘束されているせいで動けず何だと思った瞬間。
「ぐ、っ、」
ドッ、と鈍い音と腹への衝撃、油断していただけにモロに入っちまった一打に自分の体がくの字にな、らねえ、拘束されてんだわ。
「こう言うのは騒がさせねぇように手早くやるんだよ」
「そ、そうっすよね」
「っ、……っ!」
くの字になりてえ、衝撃で腹抉れてんのかぐらいの鈍痛に屈んで楽になりてえ。
つかやべえ、マナ量抑える調整なんかしてらんねえわ、痛みで集中出来ねえからとりあえず全力で抑えるしかねえ訳で。
何で抑制に気を使ってんのに痛みも我慢しなきゃなんねえだ、これなら教室でクソつまんねえ授業聞いている方がマシ……いややっぱクソつまんねえか。
「気が利かねぇな、腕、離してやれ」
「あ、そっすよね!」
「すいません!」
「、は……、!?」
拘束が取れ、口を塞いでいた右手が外れ息を吐き出したが、吐き出した息ごとまた鈍い音で詰まってしまう。
同じ場所を二度も殴られる経験なんて初めてなんだが、オレの腹が痛いとか越えて無くなっている可能性が出てきた。
さっき願っていた体がくの字になれたどうこうより、意識が手放しそうでやべえとかマナ量抑えられねえわとかそれ以前に、だ。
ボディーブロー2発ぶちかましてきたこのイケメンの顔、ぜってえ忘れねえように睨み付ける。
「っは……っ、お、ぼ……えて、ろ……」
「よく出来ました」
何がだよとイケメンの返しにイラッとしつつ体の感覚と共に痛みで意識が遠退く。
あーこれはあとでめっちゃ昌磨にキレられるじゃねえか、キレた昌磨面倒臭えんだよなあ、と倒れる直前誰かに抱えられた感覚だけ残し、もー知らねえわとブラックアウトした訳で。
「はっ! ……ってぇ、クソッ」
意識が戻って目を開けば広がる曇天、と腹の鈍痛。
どうやら保健室ではなく外に転がされたまま、ん?
痛いだけでなく、腹に重さを感じ空を見上げていた視線を下ろせば、だ。
オレの腹の上に頭を乗せてすやすやと寝息を立ててやがる茶髪イケメンが見え、脳に情報が伝達された瞬間に「うわ!」と体を転がせばゴンッと鈍い音と「ンッ!?」と言う呻き声が。
「いってー……」
と額を撫でながらすぐに起き上がる茶髪イケメン、もとい西野とやらはオレと目が合い「おう」と笑った。
「起きたか、チビ」
「……あんたもな。つか、何で人の腹で寝てんだよ、殴られてひっでー痛えのに重みまでプラスするとかサドかよ」
「元気いっぱいじゃねぇの……ふぁ、じゃ、とっとと自分でマナ抑えろよな」
「は?」
「抑制ってのはマナの浪費クソやべぇな、ようやるわ、お前マゾなんじゃねぇの?」
「初対面でマゾ扱いされる謂れねえんだが?」
「こっちをサド扱いしただろ」
それもそうか、じゃねえんだよ。
とりあえず起きた瞬間からマナ量の抑制は無意識に出来る訳だが。とりあえず。
「つか、ここどこ」
校舎の壁が一面見えるのはわかるが、雑草で生い茂った地面と木が乱雑に植わっているがここだけほんの少し拓けている感じだ。
「俺のお気に入りのサボりスポット、良いだろ? 風紀委員どころか誰も来ねぇから良いぞ」
「さっきのヤンキーたちは?」
「ん? あぁ、あいつらはあのあと来た風紀委員にパクられて生徒指導室行きだな。俺は意識の失ったお前を保健室に連れてく名目でサボりだ」
「保健室じゃねえし、あんたが殴って意識トンだんだよ」
「1発でトぶやつくれてやったのに、結構頑丈なチビちゃんだな」
「……オレのマナ量」
寝ている時とか気を失っている時は、抑制出来ねえからマナ量はそのままになるはずだ。
オレのマナ量が駄々漏れだったら昌磨が飛んで来てぶちギレるくらい想定していたのに昌磨の姿なんてねえと来た。
んでさっきのこいつの話だ、「とっとと自分でマナ抑えろ」だ。
仮定だが、多分。
「あんたが、抑えた?」
その答えに対し、西野とやらはフッと口角を上げ懐からガムを取り出して咥え笑う。
「気付くの遅ぇんだよ、チビ」
「チビチビうるせえな、つか……抑えるって人のも出来んのかよ」
「質問ばっかりだな、俺は先公じゃねぇんだぜ?」
「あんたが謎過ぎるから究明したくなるわー」
「俺のこと知りてぇって? はは、熱烈じゃねぇの」
「こっちは腹に重いの2発貰ってんでね、慰謝料に何でも教えろ。つかマジ痛えんすけど、アザになってんじゃねえの?」
「おう、男前度が上がって良かったなぁ」
「えー全く笑えねえわ、ジョークセンスクソなんすけど」
「褒めんな、照れるだろ」
「貶してんだが?」
話が全く進まねえな、いつもお利口な昌磨と話しているから聞きたいことが返って来ねえとフラストレーション的なもんが溜まるんだな、勉強になったわ。
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