一匹狼とボス犬③

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一匹狼とボス犬③

苛ついてると西野とやらはフッと口角を上げ「仕方ねぇな」と言い出したんだが、仕方ねえのはお前の頭だろ。 「端的に言えば人のマナを抑制、つーか抑え込むのは出来る」 「で、出来んのか」 「要領は同じじゃねぇの? ぶつけりゃあ良いんだからよぉ。ま、所謂マナコントロールの一端だ」 「出た、マナコントロール」 「おう、どこでも出てくんぞマナコントロールさんはな、IEで生きてくんなら」 何かあるとすぐマナコントロールって言われんだよなあ、マナコントロール苦手だ。 「あぁ、チビ、マナコントロール苦手か?」 「つかよくわかんねえ」 「なまじ無駄にマナ多いからだろうなぁ、蛇口ぶっ壊れて出しっぱなしの水みてぇな奴」 「例え」 「わかりやすいだろ?」 「まあ……で?」 「うん?」 「何でオレは、あんたにぶん殴られて、気絶して、こんなとこにあんたと2人きりなんだよ」 サボるつもりだったから良いにしても、殴られるわ腹の上で寝られてるわで気分は空と同じくどんよりしてるってもんだ。 西野とやらは、「質問が多いチビだな」とニヤニヤしつつ噛んでいたガムを膨らませる。 「いーぜ、答えてやるとも。まず殴ったのは、俺がやった方が終息すんのが早そうだったからなぁ。お前流して適当にやられるつもりだったろーが、あいつら結構ねちっこくてキモいぜ? 殴るだけじゃ終わらねぇんだよ」 「キモいのか、ツラだけにして欲しいな」 「ツラでわかんだろ、中身が滲み出てんの」 仲間じゃねえのかと思うがその通りなので「わかる」と頷き、確かにこの西野とやらとあいつらではツラの出来が違う。 「1発で沈めてやろうとしたんだがお前がなかなか耐久力あったって話で気絶のことはいいか、で此処に連れて来たのは初めはマジで保健室に連れてってやろうとして、まぁ、お前のマナ流出問題が発生してな、保険医とかに追い出されたらチビのマナ駄々漏れで色々面倒なことになるんじゃねぇかと?」 「……」 「此処に来たのは誰も来ねぇからって言った通りで、俺と2人きりなのはやっぱりマナ流出問題のせいだなぁ、さて質問の答えは以上だがチビちゃん、俺に何か言うことは?」 つまり、だ。 この西野とやらは、オレが不良に絡まれてるのを手っ取り早く解放させる為にぶん殴り気絶させ、保健室に連れてこうとしたが気絶したオレがマナ抑制出来ねえから代わりにマナを抑えていたせいで離れられずに居て起きるまで待っていた、と。 そんな風に受け取れたんだが、結論としてこいつ良い奴みてえじゃん。 「……何か、どうも……」 「おう。どっかの誰かさんのを抑え込むのにマナ使ってクソ眠ぃから寝てもいいか?」 「どーぞ」 「どーも、っと」 「って、おい」 西野とやらはごろん、と横になったかと思えばオレの膝を勝手に枕にし始めやがったんだが、何してんだ。 退かそうと試みるが頭、石で出来てんのか重てえ。 「ちょ、マジで何……膝勝手に使うなよ」 「マナ抑えてやったのと質問答えてやったろ? 膝くらい貸せよ、それとも授業出るんなら返してやってもいーぜ?」 「……貸してやるよ」 「はは、不真面目な奴だなぁ」 「あんたほどじゃねえし」 「西野昴、俺の名前。チビちゃんは?」 「……浅間慶吾」 「浅間? あぁ、それでお前絡まれてたのか」 「……知ってて絡んで来たのかと思ってたんすけど」 「知るかよ、生憎と俺は興味ある奴しか興味ねぇんだ。でもま、喜べ慶吾、めでたく興味ある奴に昇格したぜ?」 全く嬉しくねえ昇格もこの世にあるんだな、初めて知った。 人の膝に頭を乗せて機嫌良さげに笑うイケメンに全くテンションが上がるどころか下がる一方である。 「はぁ、良かったすね、西野サン……」 「ん? 昴って呼びたくねぇのか? 可愛いとこあんじゃねぇの、慶吾ちゃんは」 「ちゃん付けやめてくんね?」 「お前の俺の呼び方次第で、俺のお前の呼び方が変化する」 「何そのシステム……えー、じゃあ、……昴くん」 「慶吾お前可愛いな」 膝の上からがばり、と起き上がった西野、もとい昴くんは目を丸くしまじまじとオレを見てから、「男なんだよなぁ」と呟き膝の上に寝直した。 「何なんすか」 「いや、確認ってのは大事だろ? 変な男に言い寄られそうだなぁ、お前」 「昴くんも変な男だもんな」 「だから褒めんなって」 「だからいつ褒めた?」 くあ、と眠そうに欠伸を溢し、昴くんは「んじゃ借りるわ」とだけ言うや否や、すぐに寝息が聞こえてきたがオレはあることに気付いて気が気じゃなくなる。 こいつ、噛んでたガム、出してねえのでは?
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