一匹狼とボス犬④

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一匹狼とボス犬④

昴くんが寝こけたのでオレは寝る気だったのにやることがなくなってしまい、膝枕してるのに寝る訳にもいかねえしな、と昴くんの顔を覗き込む。 イケメンは寝てる顔も良くていいな。 大人しければただのイケメンだ。 つっても、男の寝顔見ても全然楽しくねえ。 「と言うか、男しか見ねえ」 昌磨に共学って聞いたのに全く女子見ねえし……あいつもしかして嘘付いてんじゃねえのかな? いや別に女子は苦手だから見なくてもいいんだが。 つうか暇だな、と昴くんの寝顔を見直す。 よく見れば疲れているかも……オレのマナ量抑えてたからか? 昴くんも昌磨と同じマナ量減ったら眠くなるタイプなのか。 ……オレのせいでマナ量減らした、ってことになんだよなあ。 「……オレもパイセンみてえに、マナコントロール出来りゃあ……いや」 それってつまりチューでマナ分けるってことじゃねえか、仮にマナコントロール出来てもチュー初心者のオレには無理だろ。 そも男だし、と首を振ってれば膝の上でもぞもぞ何か、いや1人しか居ねえんだが。 見下ろせばばっちりと閉じてたはずの目と合う。 「マナコントロールが何だって?」 「いや……何か、だって、オレのせいみてえじゃん、昴くんのマナ量減ったの……それで」 「それで何」 「……マナコントロール出来りゃあ、他人に分けること出来たのにな、とか……?」 「……? ……あぁ、何、慶吾お前、誰かに既にマナ分けて貰ったことあんのか?」 そこでニヤニヤと笑う昴くんの腕が伸ばされスッと顎を撫でられ、「やめろって」と思わず引くオレを追うように膝の上から上体を起こして空いた距離を詰めるように近づいてくる。 何なんすか、と体ごと引いた背中は何かに、校舎の壁にぶつかってしまった。 「慶吾? お前、誰かにマナ分けて貰ったことあんだろ? どんな風に?」 昴くんはオレの真横に壁に手を付け、退路を絶つようにニヤニヤした顔面を近付けてきやがる。 「な、んで、そんなこと……え、つか、え? 他にその、手っ取り早い方法、あんの?」 「へぇ、手っ取り早ぇやり方でされたのか」 「……うぐ」 「経験済みなら話は早ぇな、慶吾。お前、自分のせいって思ってんなら、良いこと教えてやろうか」 「良いことって?」 「マナ量ってな、分けることが出来りゃあ、奪うことも出来るんだぜ? ──こんな風に」 は?、と聞き返そうと開いた口は、近かった顔が近い通り越してゼロ距離になって塞がれてしまう。 何に? 「……ん、っ!? んぐぐ……」 「……口、開けてみろよ」 「や、だ……ガム、入ってる、じゃん」 少し離れた隙に慌てて肩を全力で押して距離を離しながら口を拭いながら言えば、キョトンとした顔が見えた。 「ガム入ってなかったら良いのかよ、お前。仕方ねぇな」 「違っ……、な、何でチューすんだよ、マジでやめろ!」 「嫌がんな嫌がんな、ちょっちマナ量奪うついでに唇奪うだけだろ」 「は!?」 包み紙にやっぱり口の中に入ったままのガムを出す昴くんの突然の奇行にビビってれば、「マナコントロール出来る奴がやれば良いんだろ?」とニヤニヤした顔がまた近付いて来ようとするもんで、慌てて肩を押さえ付ける。 「初めてじゃねぇんだろ、嫌がんなよ」 「普通に嫌だろ、男同士なんすけど!」 「は? ならお前、そのマナ分けてきた奴、女だったのか?」 「……男……」 「そいつのこと好きとか付き合ってんの?」 「え? いやパイセンは全然……男と男が付き合うとか好きとかなくね? そんときも普通に嫌だったし」 「そーゆー偏見はよくねぇんじゃねぇの? それは単に慶吾、お前が慣れてねぇからビビって嫌悪感が勝ってるだけで、慣れちまえばキスは気持ちいいもんだぞ」 「慣れ……いや、でも好きじゃねえなら嫌だろ」 「初な奴はそう言うんだよ」 何かディスられてるのかオレ? 確かに経験はねえが、いやでも、好きでもない上に男同士でチューすんのはおかしくねえか? マナ分けるとか奪うとかあっても、チューはやっぱ良くねえだろ。 自分で振っといてあれだが、また顔を近付けて来ようとする昴くんに勘弁して欲しくて目を瞑る。 「す、昴くん、やだ……」 「……ククッ、何マジでビビってんだよ」 「……は?」 「べんきょーになったろ? 次からは気を付けろ」 頭をポンポンと撫でられ、昴くんはやれやれと言わんばかりに離れ、また膝の上に頭を乗せるように横になったんだが、は? 「……からかった?」 「教えろってさっき散々うるさかったから教えてやっただけだぜ? 出来るってな。授業料みてえなもんだろ、じゃなかったらマジで男にキスするか、いっくらマナのあれそれだからってなぁ?」 「冗談でチューすんのかよ」 「マジでして欲しいって? いーけど?」 「やめろやめろやめ、やめてください」 「はは、今度から嫌ならちゃんと拒絶しろよ、じゃねぇと変な男にされまくるぜ」 されまくるのかよ、嫌すぎる。 初対面だから訳分からないのは仕方ねえが、この西野昴って男、全くわからねえ。 良い奴なのか適当な奴なのか全く。 それからチャイムが2回鳴るまで人の膝を枕にしてガッツリ寝た、この訳がわからん男の寝顔を睨み付ける羽目になりながら、また男にチューされた事実に気付いてマジで何で顔の良い男は男にチュー出来るとかなのか? イケメン、怖すぎる。 昌磨がそうなったらどうすっかな……オレに関係なきゃ、まあ好きにしていいんだが。
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