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理由ある早退①
散々人の膝で寝た男こと昴くんは目を覚ました開口一番に「首痛ぇからもうちょい肉付けろよ」とオレの膝を叩いて笑いながら去ってく、つー自己中の塊みてえな去り方をしてった。
何だあのイケメン、マジで。
腹は2回も殴るわ、人の腹や膝で寝るわ、チューするわで印象がヤバいことになってるが、まあオレが気絶してる間マナ押さえ込んでてくれたみてえだけど、そも昴くんが気絶させたせいだから全ての元凶じゃん。
自由人かよ、と立ち上がろうとしたが、昴くんに2限分膝枕させられたせいで痺れて動かねえ、マジで昴くん何だよあいつ。
結局、足の痺れが取れるまで時間が掛かって教室に戻るのもダルかったし腹の痛みがまだあるから具合が悪いつーことで早退することにした。
昼前だし、確か広臣さんは午後から仕事だったから居るよな、と家に着いて玄関のドアを開け「ただいまー」と言いながら、見慣れない靴があることにビビって思わず息を潜める。
誰か来てると思ってなかったオレ、の元に驚いた様子の広臣さんが玄関の方までやって来た。
「どうした、慶吾。ゴリゴリに学校に居る時間だろ?」
「それが不良に絡まれてイジメられたショックで早退してきた」
「何?」
「いやいや、不良ってのはこんな時間に学校に居ない慶吾クンのことでしょーよ」
「あ」
真実を伝えると顔を強張らせる広臣さんの後ろから、天辺が黒くなってきてる金髪のそばかすスーツの兄ちゃんを見て息を吐き出してへらっと笑って手を振る。
「なーんだ、真中兄ちゃんじゃん。高そうな靴だったから知らん人かと思った」
「いいだろ、午後から浅間サンを本部に連れてくからね、身なりをちゃんとしとかないと本部通勤の同期に舐められるワケ」
「身なり整えるならそのプリンどうにかしたほーがいいんでない?」
「いいんだよ、これはオレのアイデンティティなのー」
オレと同じようにヘラヘラ笑って軽く笑うのは広臣さんの直属の部下で、オレや昌磨より7つ年上の真中虎吉兄ちゃんだ。
プリン髪と名前で広臣さんには「トラ」と呼ばれてて、よくうちに遊びに来てはオレの遊び相手をしてくれる気さくな兄ちゃんで正直昌磨より兄貴って感じがする。
「トラ、ちょっと静かにな。で、慶吾、イジメられたって? ダルくなって早退するにももっとマシな言い訳がだな」
「いやマジだって。ほら……よっと、ど? ここ殴られたんだよ2回も、痣とかになってね?」
ダルくなって早退してきただけだが殴られたのはマジだし、と服を捲って腹を見せれば、2人の顔付きが一瞬で怖くなった。
「……へえ、見えないとこ殴るなんてやるね。で、慶吾クンそいつ誰?」
「え……や、知んない、昌磨のこと好きみてえなキモい不良だったけど」
殴ってきたのは昴くんだが殴られたきっかけになったのは昌磨が好きな奴らのせいだし、と思って答えた言葉のせいで広臣さんの眉間がめちゃくちゃ険しいものになる。
「……やっぱ、閉鎖的な学校ってのは良くないのか……?」
「へ?」
「浅間サン、浅間サン。慶吾クン目の前に居ますよ」
「ん、ああそうだった。そうか慶吾、イジメられたって言うのは昌磨には言ったのか?」
「昌磨? いや、朝別れてから会わねえまま帰ってきた」
「あー……言ってこなかったかー、うんー……ちょっと昌磨に連絡入れておくから」
はあ、とため息を溢す広臣さんがリビングの方に戻るのを真中兄ちゃんは「慶吾クン腹へったんじゃない、着替えといでよ」と肩をポンポンと撫でられたので頷いて部屋に行ってさっさと制服を脱ぎ捨てた。
ついでに姿見で自分の腹を確認すると、赤黒い痣がくっきりしており、よく腹貫通しなかったなレベルで痛かったのを思い出し撫でてから服を着る。
「はあ……早退したけど広臣さんたち居なくなるから暇だし、マナコントロールちゃんでも練習すっか」
どいつもこいつもマナコントロールマナコントロール言いやがって、あれが出来れば簡単にチューされなくて済む訳だし……つか、男にチュー2人目って事実が今突然頭痛えレベルでドン引きもんだ。
イケメンだから頭おかしくなって性別の判別が出来ねえのかも知んない、久しぶりに見た真中兄ちゃんくらいに髪型以外は平々凡々とした男見るとやっぱああいう男の方が接してて楽まである。
「ま、つーか、あんま人と関わりたくねえんすけどー?」
何か急に色んな人に絡まれ始めてる気がして、疲れる。
「慶吾ー?」と広臣さんの呼び声が聞こえ、1人でうだうだ考えてても無駄だなとさっさとリビングの方に向かった。
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