非現実的日常①

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非現実的日常①

行くところが同じなモンで、先を歩く昌磨の後ろをついていく形で歩く羽目になっている。 仲良しと思われたらどうするんだ、吐くぞ。 「はあ、ダリぃ」 「お前、宿題やって来たか?」 「宿題? オレのクラスそんなのねえよ」 「馬鹿野郎、同じクラスだよ」 「は? ……ああ、やったやった、昨日放課後居残ってやって置き勉したやつだ、持ち帰ったら忘れるかもだからさ。昌磨やったの? 見せてやろうか?」 「要るかよ」 「見たがれよ」 「何でだ」 呆れた様子で睨まれてしまい、面倒臭くなって喋るのやめて早足で歩き昌磨を抜いて先を歩けば「おい、慶吾」と追い掛けてくる昌磨、に「おはよう、昌磨!」とクラスメートの……誰だか忘れた、が話し掛けたので撒くようにそのまま先を歩いた。 「チッ……」 「また子守りしてんの、昌磨。大変だね、つかあいつ喋んなくない?」 まだそんな離れてねえから聞こえてんだよなあ、あ、嫌みか。なるほどなあ、股の間に付くもの付いてねえのかも知れねえや。 うちの学校は残念なことに女子が希少価値、所謂工業系と言うやつらしく、オレは見たことがねえので多分居ないかも知れん。 前を見ても後ろを見ても野郎ばっかだ、ま、女にいい思い出が然程無い人生なんで別に良いんだが、うん良いのか? もしかして人間として繁殖意欲失ってねえか、オレ。 「慶吾と話したい訳でも無いんだろ、なら別に気にすることでも無いと思うが?」 「え? ……まあ、そうだけど、何て言うか感じ悪いしさ」 「そうか? こう言う風に本人に聞こえるように言うお前より喋らない慶吾の方がずっとマシだと思う」 「え、昌磨、その」 「感じ悪いよ、お前」 じゃあ、と告げてオレの隣に並ぶので昌磨を見上げた。 「お前は性格キツいよな、顔が良いだけに泣かれんぞ」 「弟を馬鹿にされたら怒るだろ」 「誰が弟だよ」 「お前だろ、誕生日俺より後だし背も小さいし」 「うわんお兄ちゃんがイジメテクルー」 「……俺が悪かった、お兄ちゃんはやめろ気持ち悪い」 「お前本当に性格キツいよなあ」 友達少なくなっても知らねえぞ、と思うが無駄に顔が良いだけに昌磨の周りは大体人口密度が多い。 そしてオレは人付き合いが面倒でクラスでは滅多に喋らず、所謂一匹狼ちゃんってやつをクールに気取っているんだが、昌磨はあろうことかそんなオレを盾にし人を避ける為に登下校を一緒にしてるらしいので腹立たしいったらありゃしない。 教室に着くや否や昌磨の隙を見て離れ、一番前の窓際の定位置に腰を下ろせばあっという間に囲まれる昌磨を視界から外して窓の外を見る。 良い天気だ、授業でもサボりたくなるほどに……サボるか。 昌磨がこっちを見てねえ隙に、教室から出た。 各教室に向かう生徒とは反対方向に歩きつつ中央階段を上がり、『立入禁止』と貼られた紙が付いてるロープを潜って抜けた先のドア、立て付けが悪いがドアノブを持ち上げるように回すと同時にドアの下部を強めに蹴ればカチャリ、と音を立てて開く。 「鍵がぶっ壊れてるだけなんだよなあ、っと」 日差したっぷり降り注ぐ校舎内のお気に入りの場所、屋上ちゃんこんにちは。 そこで始業のベルが聞こえたので、授業サボって屋上なんてゴテゴテの不良みてえと笑うが、端から見れば完全に不良なのだろう。 宿題の場所はあらかじめ昌磨に言っといたから出しといてくれるはずだ、と落下防止のフェンスに背を預け座る。 「またサボったのか、浅間慶吾」 「おっと先客。うぃーっす、パイセンこそサボりっすか?」 視線の先、入ってきたドアの上、梯子を登らないと上がれないような凸部に腰を下ろす、ダークグレーの髪が風で揺れる美丈夫、3年の武内幸隆パイセンがオレを見下ろすとカンッと何かを足蹴にした。 「こっちのが風気持ちいいぞ」 「行って良いんすか? 武内パイセン今日機嫌良いんすね」 「天気が良いからな」 「それはわかるー」 パイセンの足元にある梯子を登り、「お邪魔しまーす」と横に並べば確かにうむ、風が気持ちいい。 「あー、いっすねー、風。パイセンがサボりたくなるのわかるわー」 「俺はサボってない、風紀委員だからな。こうしてサボろうとする生徒を指導する立場だから見回りしていたところだ」 「屋上まで来る奴居るんすか? 大体の奴、あのドア開けられなくて挫折しね?」 「浅間慶吾が来ると判断した」 「オレ限定指導かよ、照れるわ。良いなあ、風紀委員。指導の名目でサボれんでしょ、憧れるわー」 「生徒会に犬のように使われるのが難点だ。首輪付けられるのは嫌だろ」 「嫌だなあ」 「野良犬だもんな」 「犬から離れね?」 確かに一匹狼気取ってますがね、犬扱いより狼扱いのが良いんだが? パイセンはそこそこご機嫌麗しいのか、「そうだな」と珍しく小さく笑った。 「浅間慶吾、今日の放課後は空いているか?」 「帰宅部なの知ってんでしょ、大体空いていますね、友達は近所の犬猫くらいなんで」 「友達居ないのか、可哀想だな。俺がなってやろうか」 「うへ、パイセンみたいな優等生と釣るんでいるのバレたら内申良くなっちゃうじゃん。つかうちの昌磨くんとも仲良くなっちゃうけど大丈夫?」 「浅間か、俺あいつ嫌いなんだよな。見るからに優等生っぽい奴好きじゃないんだ」 「ブーメランしてね?」 パイセンは見た目は優等生ってかまあ顔も良ければ体格も良いし風紀委員なのでそこそこしっかり制服着てる訳なので優等生に近しいのだが、昌磨は見た目も成績も優等生なので顔が良い奴はどうやら優等生になる運命らしい。可哀想。 パイセンは同族嫌悪系なのかも知れん。話すと楽しいので昌磨は勿体ねえ人と仲良くなりそびれてやんの。 「暇なら良かった。いつものを手伝って欲しい」 「オレにまーだ付き合わせんの?」 「ジュース奢ってやるから」 「豆乳バナナ」 「いちごオレも付ける」 「しっかたねえなあ、そこまで言うなら手伝ってやろうじゃん?」 「助かる」 よしよし、と頭を撫でられてしまった。 だから犬じゃねえってよと思うが、大きい手が亡き父を彷彿させて嫌ではないのでパイセンに頭を撫でられるのは好きな部類だった。 「……パイセン、放課後で良いのかい?」 「ん? ……ああ、目に付くな、"あれ"は」 うごうご、とした黒い"何か"。 バレーボール大くらいだろうか、そんな黒い"何か"が蠢くようにフェンスの上から這い、べちゃり、と音を立てて屋上の床に落ちる。 それが、2つ。べちゃり、べちゃり、と続けて落ちてきたのを見て、オレはパイセンに頭を撫でさせたまま懐に右手を突っ込んで硬質なそれを取り出した。 「これはサービス」 引き金を2回引く、と命中したパンッと弾ける黒い"何か"はそのまま塵のように霧散して消える。 右手で回すのは拳銃の形をしたもので、弾は入っていない。 オレが『最初の授業で作った』、あれに対抗する武器なのだ。 「流石、浅間慶吾だ」 「これくらい、誰でも出来るでしょ」 「だが銃タイプはお前しか居ないからな、速さ的確さなら右には出ないだろ」 「ガトリングタイプの人居るでしょー。量が多かったら疲れるけどなあ、燃費悪いんでオレ」 良いなあ、ガトリング。1回で大量に退治出来るが、うん、少数だったら無駄だなあ。 時は現代、平和な世の裏側で謎の生物が蔓延っていた。なんてSFよろしくな設定ですか、と思うがオレには至って現実な訳で。 それを退治しうる力を宿した者を【インビジブルイレイサー】、なんて厨二然とした呼び名があるのが遺憾過ぎる。直訳すると見えないものの消しゴムだ、めっちゃカッコ悪い。 そんなインビジブルイレイサー、通称IEを育成する機関であるのがうちの学校、私立坂森学園って訳だ。 表向きは工業系と言っているがその実、全国からIEの力を持つ若者を育て、黒い"何か"──通称インビジブル、IEでなければ見えないからそう呼ばれている──を撲滅する機関なのだ。 そんな特殊な力を残念なことにオレも昌磨も持っており、勿論昌磨の父である広臣さんもベテランIEらしい、幼い頃からインビジブルを家族総出でぶっ飛ばしていた。 養子のオレは、何と言うか亡き両親がどちらもIEだったらしく、広臣さん曰く特に父がIEの間では有名なエリートだったらしいのだ。全く知らねえ。 オレの親族の中では両親とオレだけがIEの素質があった為、だから腫れ物の扱いを受けていた、と言う今思えばすこぶるどうでも良い補足があったのだが。 「オレはパイセンみてえな、かっけえ槍好きだなあ。でけえし、本多忠勝みてえで」 「良いよな、本多忠勝」 「わかるー」 使う武器トークで盛り上がっている間にベルが鳴ってしまい、サボっていることに目の色を変えた昌磨が迎えに来たら困るので仕方なく教室に戻ることにした。
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