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理由ある早退②
「慶吾お前、朝から出席してなかったのか?」
リビングに行くやいなや広臣さんが呆れた顔をするので、腹をさすりながら「殴られて気絶しててさー」とサボりを真実のオブラートに包めば「朝から不良に絡まれたのか」とすぐに表情を曇らせた。
「そゆこと。え、もしかして昌磨くんおこちゃんな感じ?」
「いや……あー、えっと……見つからないからどうせ帰ったんだろって返事来たな」
「はは、オレを探し回るのウケるわ」
「慶吾クンがケータイ持ってくれたら2人も安心すると思うよ?」
「えー、別にオレは広臣さんも昌磨もマナ量で見つけられるから要らねえじゃん」
「2人が見つけられないんだわ、慶吾クンが抑制してっから」
真中兄ちゃんにそう言われるけど、何か昌磨はオレ見つけるの上手えんだよな、才能か?
それなら無駄な才能で笑うわ。
「まあ、慶吾は電子機器に弱いからその話はさておき」
と広臣さんが焼きそばをテーブルに置いて「帰ってくると思わなかったから簡単なのだからな」と言うので、「ラッキー」とすぐに席に着く。
広臣さんの料理の中で一番まともで材料もその辺にあったので適当な切り方だけど何故か美味え焼きそばにテンション上がったオレに、真中兄ちゃんは頬杖をつきながら「慶吾クンは慶吾クンのままだな」と何故かディスられた。
「広臣さーん、真中兄ちゃんがディスってきたー」
「違うって褒めてんの」
「褒め方下手すぎじゃん、それだから部下つかねえだわ」
「慶吾クンのがディスってんだからな!?」
「はいはい、そこまで。慶吾、俺はこれから本部に行かなきゃならんがすぐ帰ってくるようにするから、それまで大人しくしてるんだぞ」
「え、すぐ帰って来てくれんの?」
本部とやらが何処にあるのかわかんねえけど、たまに休日に行く時は半日くらい帰って来ないことはざらで、昌磨と家で過ごして待ってたもんだ。
首を傾げるオレに広臣さんは「まあな」とスーツ姿の真中兄ちゃんの肩に手を置く。
「全部トラに押し付けたらすぐ済む」
「ちょちょちょ、浅間サン!? 何言ってんですか」
「うるさいぞ、慶吾の怪我に触るだろ」
「あーこの人面倒臭いからって慶吾クンの怪我を言い訳にしてサボろうとしてるー! 局長に言いますからね!?」
「はは、お前みたいな入社して数年の奴と俺みたいな勤続30年オーバーのベテラン、信用度はどっちが上かって話よ」
「パワハラだ!」
「え、オレのことならほっといてもいーけど?」
広臣さんみたいな真面目な人がオレのせいでサボるつもりならやめといた方が良い、腹痛いくらいでだらだらマナコントロールの練習するだけだし。
そんなオレに広臣さんはと言うと、よしよしと頭を撫でてくる。いや何で。
「たまには昌磨が居ないところで慶吾を目一杯甘やかそうって決めたんだ、お前は肝心なところで甘えてこないからな」
「え、いつも甘やかされてっけど。つか、それなら昌磨を可愛がった方が良くね? だからあいつちょっと性格悪いんじゃねえの?」
「昌磨は俺が甘やかそうとすると死にそうな顔で嫌がるからな、代わりに慶吾が甘やかしてやれ」
「絶対に嫌だけど」
「良かったな昌磨クン、今居なくて……」
何故か真中兄ちゃんが憐れみ始めたのを横目に、「どうせ面倒な仕事渡されるだけだから行きたくないんだよ」と広臣さんはため息を溢した。
「こんな年寄りをこき使うブラックだからな」
「え、でも浅間サン引退しないのって、け、むごご」
「そんな訳でトラ、全部頼んだぞ」
真中兄ちゃんの口を押さえ付けながら微笑む広臣さんはどうやらガチで早く帰ってくるみたいだ、それならオレは嬉しくはあるので良いかなと思う。
「食べ終わったら食器片付けるんだぞ」と出勤時間になったらしい広臣さんがリビングから出てくと、「え、その格好で行くんですか!? スーツは!?」と真中兄ちゃんが慌てた様子で追い掛けてった。
声がしなくなったのでもう行ったのかと少し冷めた焼きそばを食べ、皿を洗ってからリビングのソファーに腰を下ろす。
「ふう……ん?」
落ち着いた、と息を吐けば、窓の外にうごうごと動く下級インビジブルが見えた。
そっと近寄って這ってるインビジブルを窓越しに指でなぞれば、ぽてっと窓から落ちてそのまま家から離れてく。
オレのマナを少し食べて満足したんだろ、インビジブルも昼飯の時間だったのか。
家の中ではマナを抑えなくて良い、何か浅間家にはマナが漏れない不思議な細工がされてるとか何とかで、インビジブルとか他のIEとかにマナを探知されない為だとか。
IEの家は基本的にそう言う細工が施されてるらしい、学校もそう言う細工すりゃあ良いのに。
そんな細工がされてるけど、オレが飯食った後とか窓に近付くとインビジブルが寄ってくるらしいから普段は近付くなと昌磨に怒られる。
「……ほんとは始末したいけど、何か家に来るインビジブルはマナ食いに来るだけだし」
そもそも銃出すのが面倒臭え、これで帰るならむしろ撃つよりマナが減らねえ訳で。
昌磨や広臣さんが居る時は、つか他の誰かが居れば始末するが、基本的に楽の方が良い。
それにしても。
「前、授業中に、えーと、せ、せ……洗剤さん? がマナ吸われた時は肥大化してたの何でだ?」
背中にべっとりと居たインビジブルのキモさを思い出し、今帰ってったインビジブルと比較する。
オレのマナはちょっとで良いけど洗剤さんのマナはもっと食いてえってこと?
「もしかしてオレのマナ、洗剤さんのより不味い感じ?」
だからちょっと食べて不味くて逃げ帰るのか、あいつら!?
いや、不味い方が良いのか……?
毒なら殺傷力高いってことに……あー、やめだやめだ、意味わかんねえわ。
ソファーに戻り座り直して、まだズキズキする腹を撫でて息を吐く。
マナコントロールでもすっか、と朝のスパルタを思い出して調整し始めたのだった。
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