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非現実的日常②
「慶吾、まっすぐ帰るのか?」
「いんにゃ、パイセンがジュース奢ってくれるからちょっと野暮用だわ」
「また武内先輩か……俺、あの先輩苦手なんだよな、優等生っぽいだろ」
「相互同族嫌悪かい」
放課後、各々がインビジブルの出現がなくホッとした様子で帰宅や部活で教室を出るのを見てれば、委員の仕事がある真面目な昌磨が近付いてきた。
「清掃活動のお手伝いってやつよ、数少ねえと思うしまだインビジブル倒せねえ可愛い生徒ちゃんたちが怯えて武器振り回して器物損壊が心配らしいのよ、生徒会さんも」
「なら尚更、生徒会でも風紀委員でもない慶吾に頼るのは違うと思うが」
「ほんとな? でもま、生徒会にも風紀委員にも内緒でオレを独断で使っているらしいから、パイセン」
「ふうん? なら俺も独断で手伝おうか?」
「やめとけやめとけ、目立つだろお前は。生徒会に入れられて馬車馬のように使われるぞう」
「野良犬餌付けして使ってる飼い犬よりマシだろ」
「また犬かよ」
どいつもこいつも犬大好きか、オレも犬好きだが犬より狼でオナシャスってところで昌磨とは別れ、廊下をプラプラ歩く。
廊下ですれ違う、部活へ急ぐ生徒、の足元で蠢くものを見付けすぐさま撃ち抜いた。
カシュ、と言う音が気になったんだろ、「え?」と振り返る生徒に両手をブラブラさせながら反対側に足を向ければ、「気のせいか」とすぐに部活へと向かっていく。
「もっと音消せるようにカスタマイズするかな」
これでも大分カスタマイズして消音に近付けているんだが。
何でこんなオレが消音に気を配らなきゃなんねえのだ、隠れてこそこそインビジブル退治なんて正義の味方でも今時効果音バシバシでやるだろ。
目立ちたくない、これに尽きる。うむ。
インビジブルは、IEの特有の、言わば"気"のようなものに弱い。
ゲームで言えば魔力みてえな、そんなんだ。
IEの間では【マナ】と呼ばれ、その所有しているマナが多いほどインビジブルにとっては驚異なIEとなるらしい。ここら辺は授業ちゃんと聞いてねえからいまいち知らん。
んで、この坂森学園ではマナが高い奴は生徒会と言うエリート集団に入れられ、オレが朝からちまちま潰している誰でも倒せるが見付けにくい下等インビジブルでは無く、見るからにでかい強い上級インビジブルを率先と倒す人員とされる。
そしてそんなエリート様たちがわざわざ赴くことでもねえけど、インビジブル退治に慣れてない生徒からすれば下等級でも倒すとなると騒動になりかねない、ってことで速やかに下等級を殲滅しているのが生徒会の駒とされる風紀委員だ。
生徒会の犬としてあっちこっち使いっぱにされるがそこそこのマナを有した者で生徒会の言うことを聞けるお利口ちゃんが属している、武内パイセンもその1人なんだがオレからするとあんまお利口ちゃんには見えませんよな。
「そしてオレはパイセンに使われるのであった、完」
カシュ、と音を鳴らし、1年の階層の清掃は大方終わっただろくらいだ。
こうしてインビジブル涌き出て来るのは、天敵なのだがどうやらIEの【マナ】が好物らしく近寄ってくるらしいのだ。驚異なのに美味とはこれ如何に。
一般人が平和に暮らしている中でIEだけ危険な目に遭い戦っているのは、殺すか食われるか、と言うことらしい、全く解せないのだがまあ下等級くらいならちょっとマナ減るくらいなので倒せねえ可愛い生徒ちゃんたちでもそこまで怖くねえんだ。
でも生徒ちゃんたちが可愛い生徒会の皆さんは自立出来るまで庇護したい訳らしいのです、全く自分で動けクソが。
「お前は、浅間弟……!」
と、階段付近で1人の男子生徒がオレを見るや否や手にしたサバイバルナイフのような【対インビジブル武器】を握り締めた。
「何すか、ええと……何とかさん? オレ、インビジブルじゃねえんすけど」
「瀬川亘だ! 隣のクラスの!」
「隣のクラスの瀬川さん、こんにちは、さようなら」
「え、あ、うん、さようなら……じゃなくて! 何でこんなところでうろうろしてる!」
瀬川さんとやらは刃先を仕舞い、ずかずかオレに近付いてくる。
ので一歩後ろに下がった。
「何でって、通っている校内歩いちゃ駄目なんすか」
「用のない生徒は速やかに帰宅する校則だろう、帰宅部なら速やかに帰宅! 良いか?」
「いや、まあ、じゃあ、戸籍上兄を待っている感じなんすけど、多分」
「多分て……ここら辺は、その、下等インビジブルが今日多いらしいから、危ないから帰った方が良いんだ」
「ああ、瀬川さん、風紀委員なんすか」
「そうだ、名誉なことに選ばれてな! 1年階層の担当してる!」
「居ました? インビジブル」
「いや、全く見ない……もしかして2年3年の階層に行ってるのかな? 先輩たちの方がマナ多いし」
「そなんすね」
オレが粗方やったからなあ、何だよパイセン、担当風紀委員居るなら手伝わなくても良くね?
しかし、まだ5月なのに風紀委員に選ばれる1年が居るってことはこの瀬川さんとやらは結構な手練れなのだろ。
うちの昌磨のが強いだろうけど。うん、鬼強いからな、広臣さんの血を引いているだけはある。
生徒会に目を付けられているのを察して学級委員になって生徒会を断る算段立てたほどだからあいつ、ヤバいな。
「……お前、喋らない奴かと思ったら結構話しやすいな」
「そっすか? 根暗陰険不良って思われている方が楽なんすけど」
「自己評価それは駄目だろ……」
「瀬川さんみてえな優等生と話していると内申上がりそうだから、もういっすか?」
「待て、浅間弟! そっちは上級生の階に行く階段しかないぞ。先輩たちの清掃が終わるまで動くな」
「終わったから、動いて良い」
「あ、武内先輩!」
と、階段から降りてきたパイセンを見てホッとする瀬川さん。良かったね。
「瀬川、インビジブルは始末出来たか?」
「いえ、その……この階には居ないようでした」
「だろうな」
「え?」
「いや。それより浅間慶吾。こんなところでまだ残っていたのか、指導だ、こっちへ来い」
「へーい」
やった、ジュースだ、と自販機の方へ向かうパイセンの後をついていこうとする背中に「待ってください!」と瀬川さんが声を掛けてきた。
「浅間弟は、自分が引き留めてしまって……その、指導は……」
「瀬川さん、やさしー。でもいんすよ、オレを指導するのはパイセンの趣味なんで」
「は?」
「そうだな、俺の個人的趣味で浅間慶吾を個別指導している」
「こ、個別指導……!? 個人的趣味で……!?」
いたいけな1年生が多大なる誤解をしてしまったが、これはパイセンが黙ってオレを使っているせいだから評判悪くなっても知らん。
それじゃ、と固まってしまった瀬川さんを残し、2人で自販機に向かうと、約束通りに豆乳バナナといちごオレを奢って貰った。
「つか、1年の風紀委員出来たんならオレを使わなくて良くない? パイセンの財布にダメージないでしょ」
「瀬川は良いんだが武器がサバイバルナイフだからな、動きが多い上に退治している姿が大きいからまだ退治に慣れていない1年は怯える」
「じゃあ速やかに動けるようになるまで、風紀委員の誰かに付けてあげれば?」
「俺は踏んで倒しているからな」
「槍使わんのかい」
マナコントロールが上手くなると生身で一ヶ所にマナを集めて下等級くらいなら簡単に倒せる、と言うのは広臣さんから教えてもらってたが、このパイセン、踏んで倒してんのか、ヤバいな。
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