非現実的日常③

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非現実的日常③

「うーん、腹減った」 手伝ってちょろっと武器を使ったせいで、腹が減ってヤバい。 マナを使うと人によるが、体力が減ったり調子が悪くなったりするらしい、オレの場合は腹が減るのだ。 ジュースを飲んだだけでは回復しきれず、玄関のベンチに腰を掛けて腹を鳴らしていた。 何だかんだ昌磨が来るのを待っている、帰る場所が同じだし、微妙な時間になってしまい友達の犬猫の集会もお開きになっているから早く帰っても広臣さん居ねえし、そも鍵持ってねえや。 「しょーまぁ、腹減ったよー、帰ってきてくれー」 食料持っているとは限らねえが空腹を訴える相手が欲しい、マジで自分の燃費の悪さが恨めしい。 マナの感知を抑えるのは出来るのでオレは生徒の中でもマナが低いと感じられるよう調整しなさいと、広臣さんにも昌磨にも言われている。 生徒会に目を付けられるかららしいが、風紀委員の武内パイセンに目を付けられているからなあ。 みんなには楽そうって思われているが、弾としてマナを練り撃つ、と言うのはなかなか疲れる訳で。 ジュース2本くらいの働きで抑えたつもりなのに、なかなかどうしてコントロールが下手だ。もっと省エネ出来るように頑張ろ、と向上心持つ偉いオレが腹を鳴らしていると、ふと目の前が翳った。 「お食べ」 目の前にはメロンパン。 顔を上げればメロンパンを差し出すイケメン、傷んでいない金髪と碧眼がやけに似合うイケメンは見覚えがあり、メロンパンとイケメンを交互に見てしまった。 そんなオレを見て、金髪イケメンはこてん、と首を傾げる。 「食べないのかい?」 「えっと……何で?」 「お腹を空いているんだろう、ふふ、向こうまでお腹の音が響いていたよ。メロンパンは嫌いかい?」 「好きっす……いんすか?」 「良いとも。その代わり、隣に座っても良いかな?」 「えっ、や……さすがにヤバくねえっすか? オレみてえな不良と並んで座るお人じゃねえでしょ」 「僕は人を見た目で判断するような人間では無いんだ、ごめんね」 と、教育の良さが窺える所作でオレの隣に腰を下ろし、どうぞとメロンパンを膝の上に乗せてきて微笑むこの金髪イケメン、は。 我らが坂森学園の代表、生徒会長様で仰せられる宮下凌平様だ。 学園に通う生徒なら誰でもご存知、エリート中のエリート、トップエリートIEであるこの人が何故1年の問題児のオレの隣に座るのか。理解しがたい。 しかし、ぐう、となる腹の虫は正直なので、手を合わせ「遠慮無くいただきます」と早速貰ったであろうメロンパンを頬張る、超うめえ。 「君は確か、浅間昌磨くんの弟の……えっと、浅間慶吾くんだったかな」 「ご存知で」 「うん、昌磨くんは他の役員が特に気にしていてね。有名人だよ。そんな昌磨くんが手を焼いているのが君、と言うのもね。それに幸隆がよく君を指導しに行っているとか」 「武内パイセンとは、まあ、校内で結構会うっすね」 「今日は清掃活動していたけれど、大丈夫だったかい? こんな時間まで残っているなんて」 「あー、何か1年の風紀委員の人が、1年の階層には出なかったとか言ってたっすね。もしインビジブルに会ったらビビってチビりますわオレ、まだひよっこなんで。やー怖え、風紀委員さまさまですわ」 「成る程、君は下等インビジブルが出回っているのを知っているんだね」 ……カマ掛けたんかい! 確かに1年は知らねえ奴多いよなー、うん、そうだよなあ、いや何この生徒会長様、怖えんだけど? 「そりゃあ居残ってさっき武内パイセンに指導されて教えて貰ったので。それに1年の風紀委員の人が言ってたし、知っちゃ駄目系ならちゃんと風紀委員に言ってくれません?」 「そうだね、言っておくよ。それにしても、お腹が空いて大変だったね、まるでマナを消費でもしたかのようだ」 「んな訳ないでしょ、育ち盛りなんすわ。消費するほどマナ無いんで」 「うん、君のマナは脆弱過ぎる。浅間で育ってきている割には一般人に毛が付いた程度だ」 「昌磨がすげえだけだし、戸籍上浅間なだけすから、オレ」 「ああ、無神経だったね」 「別に事実だし気にしたことねえかな」 調整は出来ているようで何より、つかこのメロンパン超美味くね? 何処に売ってんだこれ、リピート必須だわ。 空腹も相まって美味メロンパンに夢中になっていると、「慶吾!」と焦った声が聞こえ顔を上げれば昌磨が駆け寄ってきた。 「昌磨、廊下走ったら怒られんぜ」 「こんなとこでメロンパン食べてる奴に言われたく無さすぎる……どうして、宮下会長と一緒に居るんだ」 「彼の空腹の音が響いていたからメロンパンをあげにね」 「空腹で死にそうになっていたらメロンパンくれたんだよ、このメロンパン超美味くねえっすか?」 「そう? 良かった、僕の知り合いが作るのが趣味でさっき貰ったやつでね、君が美味しそうに食べてたと伝えておくよ」 「すみません、会長。うちの慶吾がご迷惑をお掛けしました……ほら、早く帰るぞ、慶吾」 「ん。じゃあ会長様、ごちそうさました」 「うん、じゃあね浅間慶吾くん」 穏やかに手を振る会長から逃げるように2人で帰路に着き、辺りに誰も居ねえの確認したのか昌磨が、はあ、と深めにため息を溢す。 「お前……本当に、お前……」 「オレもビビったわ、チビるかと思った。まさかエンカウントするとは」 「……会長は、お前のマナを見破れなかったか?」 「ん、一般人に毛が付いた程度つってたわ、見た目より口悪いよなー」 「それなら良いんだが、武内先輩みたいにお前を使うかも知れないから近付くなよ」 「そろそろお役御免かも、1年の風紀委員居たんだよね。名前何だっけな? 隣のクラスの……せ、せ……せぼね? あばらだったか?」 「そんな奴、隣のクラスに居なくないか?」 「マジ? あーんま興味ねえけど、お話しちゃった。話しやすいじゃんって言ってきてゲロるかと思ったわ、優等生アレルギー出てるなこれ」 「……慶吾が話せるくらいには興味あるのか、その1年の風紀委員、と宮下会長は」 「ん?」 何か不機嫌だな、どうしたんだ、カルシウム足りねえのかな? そこでまた、ぐう、と腹の虫で訴え掛けてきた。 「メロンパンは美味かったけど、足りねえ死んじゃう」 「何発撃った?」 「ひい、ふう……7発撃ったわ。今日多かったなあ、1年階層に多かったの昌磨のマナに惹かれたんかな?」 「それは悪かったな、何食いたい? まだ父さん帰ってきて無いだろうから何か作ってやるよ」 「肉、ハンバーグ食べてえ」 「酢豚だな」 「リクエストさせた意味あんの?」 元から決まっていたのでは、と帰宅して迷いなく冷蔵庫の中身とマッチした酢豚を作り出す昌磨を見て思ったが、飯のことで何か言うと食うなと言われるので黙ることにした。
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