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屋外授業
生徒会長とエンカウントした日から数日、そろそろ【対インビジブル武器】の使い方を覚えただろうつーことで、本日は屋外授業の一貫でグランドに1年が集まっている。
「今日は実際に、インビジブルを倒すことにする。下等インビジブルはすぐに沸いて出てくるから安心して良いぞー」
「いや先生、安心は出来ません!」
「そうか? はは、まあ大丈夫だ、下等級は大したことないからな。各自武器を持ってインビジブルに会ったら授業で教えた通りに、先生が3人居るのでもし襲われそうになっても助けてやるからなー。そら、やって来たぞ!」
怯える生徒たちを見て楽しげなうちの担任が指差すと、木やら草辺りからうごうごと蠢き這いながら、バレーボール大ほどのサイズの下等級がいくつもいくつも出てきた。
うわ、いっぱい。
「いやー大漁だなあ!」
うちの担任はどうやらSの気があるらしいなあ、マジかー、とりあえずどよめく周りから離れると昌磨がやって来る。
「ちょ、こっち来んなよ、他の奴まで来んだろ」
「人が少ないとこ探してたらたまたま慶吾が居たんだろ」
そう言いながら武器を取り出す訳でもねえ昌磨に、あれこいつ武器あれだよな?
「昌磨、剣はどした?」
「邪魔だから持ってきてない」
「うわ、こいつ生身でぶん殴る気だよ、剣で凪ぎ払った方が早くね?」
「それだと他の奴の分まで消すし、取り分以外は知らないな」
ま一理あんな、片手の剣でも昌磨がやれば今居るの全部ぶった斬るだろうし。
「それに、マナコントロールの練習したかったしな。武内先輩は確か、踏んで退治してるんだっけ?」
「本人曰くだぜ、知らんわ。何でそんな対抗心バチバチな訳、特に話したことねえじゃん」
「いちいち踏むとモーションが大きくなるな、やっぱり殴った方が早そうだ」
「シカトと来たもんだ」
初めてインビジブルを倒すのか?みてえにわーわーしている他の奴を尻目に、武器すら不携帯で練習する気満々の奴居るんだが、オレは隙を付いて人が居ない木の影に隠れる。
あんな密集してたら、狙いを定めなきゃならねえだろ、オレのエイム力に期待すんな。
と、べちょり、と木の上から下等級が落ちてきたので、誰にも見付からねえ内に素早く撃ちすぐに銃を仕舞った。
サボりてえ、……サボるか?
「浅間弟、こんなところで1人で居ては危ないぞ!」
「……ん?」
誰かが慌てた様子で駆け寄って来るんだが、んーどっかで見たことあんな、誰だっけ。
あ、1年の風紀委員の人か。確か。
「ええと……あばら? いや、あぶみ、さこつ……何だったかな」
「掠りもしてない、瀬川だ、瀬川亘!」
「ああそれ、瀬川さん、こんにちは。何すかね」
「何じゃない、下等インビジブルが多く居るだろう、こんなところで1人で居て何かあったらどうする」
「何かって、そすね、ま、何かあったら先生が助けてくれるつってたんで」
「うっ、そう、なんだけど……! って、危ない!」
と瀬川さんとやらはまた上から落ちてきた下等級に向かってサバイバルナイフを突き立て、そのまま地面へと振り下げた。
確かにパイセンの言う通り動きが大き……いやまてまて瀬川さんよ、その背中どーしたよ?
背中に3つくらい下等級へばりついてんぞ、うごうごしてんの気付かねえのか?
撃ち落としてやろうにもすぐに体勢を戻し、「大事ないな、浅間弟」と言われるんだがいやいや大事あんのはお前だろ。
「あー……瀬川さん? なあんかこう、普段より疲れねえ?」
「は? ……まあ、何だかまだ2つしか倒してないんだがマナの消費が激しいのか疲れてはいるな、実践慣れしてない己が憎い」
いや消費が激しいのは背中に付いている下等級が吸っているからじゃねえの?
ちょっと大きくなってんだが、インビジブルってマナ摂取すると肥大すんのか、勉強になったわ。
これ以上はヤバいな、いくら下等級と言え、瀬川さんが風紀委員に選ばれる程のマナ量と言えだ、疲れるどころじゃねえでしょ。
つか先生たちとやらはどうした、生徒がヤバいぞ、と目配せば他の生徒たちの助力に忙しくこっちには目もくれてないと来た。
オッケーわかりました、オレが片付けてやるよ。
問題はどう撃つかだが、後ろ向く瞬間に撃つのがベストって感じね、よし決まった。
「あ! あれ何だ?」
「ん!? 何だ、何が!?」
何もねえ方を指差せば案の定素直っぽいお利口ちゃんな瀬川さんは慌てて振り向く、その瞬間。
カシュ、と3回、瀬川さんに当たらねえ角度で背中の下等級3つに命中させれば、いつもみてえに弾ける、のでは無くどろりと溶けるみてえに背中から剥がれ、地面に落ちる前に霧散した。
何かめっちゃキモい。
「おい、何も無かったぞ」と瀬川さんがこっちを向く、その背後でまた木の上から下等級が落ちようとしているので、何だこの人、インビジブルホイホイか?
そのまま瀬川さんの背中に付きたいのか、形状を変えスライムみてえにドロッとなるのが不快過ぎて何なんだ瀬川さんマジふざけんな。
「え、でも向こうにインビジブルの群れ居ねえすか?」
「群れが!? それは大変だ!」
再び同じ方角へ振り向く瀬川さん、に飛び移ろうとする下等級を撃ち抜き、おまけに地面を這いながらこっちへ向かってくるのも撃ち落とした。
待て、ちょっと、腹減ってきた……「群れは何処だ」と怪訝そうな瀬川さんに、また下等級が張り付こうとしやがるのでマジでいい加減にしろと撃ち抜き、群れられてんのはお前だよとキレそう。キレても良いよな、何だパイセンにあとで言い付けんぞ。
「浅間弟、やはり見えないな」
「あ、そすか……ここら辺、居ねえのかも知れねえし、瀬川さんは向こうのみんな居る方で手伝ってあげた方がいんでない? ほら風紀委員なら実力あるし」
「だが、浅間弟が1人になるだろう?」
「は?」
こんなんだったら1人のが楽に決まってんだろ、と懐に何度も銃仕舞うこっちの身にもなれよ、とキレそうになりつつ、「出てきたらそっちに逃げるんで」と何故か弱い扱いを受けている気がしてその通りに言えば、何故か渋々と言ったご様子で「わかった」と頷かれた。
良かった良かった、さっさと向こうに行ってくれた。
ふう、と息を吐き木に背を預ければ、また木の上から落ちようとするので撃ち抜く、のは良いんだが、木の上から落ちてきすぎじゃね?
何処から出てくんだこれ、と上を見上げれば「慶吾」と昌磨が駆け寄って来る。
「しょーま」
「こんなとこに居たのか、サボるなよ」
「サボりたかったんだよ、クソ……」
「……お前、何か疲れてないか?」
「おっ、浅間兄弟、こんなところに居たのか」
顔を覗き込もうと身を屈めた昌磨、の真後ろにいつ来たのか、うちのSの気質があるらしいと先程判明した担任が楽しそうに立っていた。
「っ、先生? 何時から」
「浅間、昌磨の方を追ってな。お前のことだ弟を見付けるの上手いだろ?」
「大体端の方に居ますよ、こいつ」
「んで、慶吾? お前サボ……ってた割には何かこう、グッタリしてんな?」
「……腹減っただけすわ、成長期なんで」
「成長すると良いなー、お前小せえからモリモリ食えよー。もう数も減ったから校舎に戻れって言いに来たんだ、先生は。そらそら、戻った戻った」
パンパン、と手を叩く担任に急かされ、オレと昌磨はまばらの生徒たちと同じく、校舎へ向かうことに。
「はあ、ダリい……」
「お前、何発撃った?」
「んー、いくつだあ? ……7発くらい?」
「こないだと同じだな、動けるか?」
「昌磨くん、オレはサボっても良いかい? 爆音響かせ授業妨害になるぞ」
「……仕方ない、あと1限で昼だから、人に見付からないところで大人しくしてるんだぞ」
「優等生らしからぬ神対応に嬉しくて泣くわ」
「俺が優等生? 冗談だろ、嫌いなタイプだ」
「ブーメランだっての」
お前が優等生じゃなかったら誰が優等生なんだ、ま良いか、考えを改められる前に昌磨と別れ俺は屋上へと足を向けたのだった。
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