1 猫は今日も夢を見る

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

1 猫は今日も夢を見る

 我輩は猫といる。でも猫を飼ってはいない。  正確には、一匹の野良猫がよくうちに来る。黒い毛並みで、警戒心が強そうな目をしている。そのくせ、なぜか我輩のアパートの玄関前で無警戒に丸まって寝ている。  最初に見たときは、真っ昼間に民家と民家の間を悠然と歩いていた。人間に見つかっても全く気にしないといった態度で、わざとゆっくり歩いているのではないかと思うほどだった。それは、何らかの法律を制定させないための牛歩戦術のように見えた。猫なのに牛歩戦術というのも変な話だが。  我輩が帰宅してきても猫は玄関前で微動だにせず丸まっていて、片目をうっすら開けて我輩の存在を確認するだけであった。ドアを開き猫を避けながら部屋に入ろうとすると、猫は我輩の足元から追い抜いて中に入ってくる。そして今日もいつものように冷蔵庫の前に行く。猫は疲れているらしく、また丸まって眠る態勢になっている。  我輩は、外出する前には必ず節電のためにコンセントを抜いている。帰宅したらそのコンセントを差し込む。それからテレビのリモコンを見つけてテレビをつける。それが帰宅後のルーティンだ。  学生時代、風呂トイレ共同の四畳半アパートに住んでいたとき、そのアパートにはサークルの先輩や後輩も住んでいて、各部屋に自由に行き来できるよう外出するときは鍵をかけず、節電のためにコンセントを抜くということもせず、「寮のような」をコンセプトに生活していたので、10年たった今のルーティンは、時の流れを感じる。  猫を見た。どうやらもう寝ているようだ。いつものように夢を見ているのだろう。猫はいつも夢を見ている。特によく見ているのが、近所の小学校内をウロウロする夢だ。その夢をよく見るのは、その小学校に知り合いが多いからだろう。  近所の野良猫友達の山さんや、小学校の校長先生はもちろん広瀬先生から給食のおばさんたちまで皆知り合いである。 猫は今日も夢を見る。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!