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「あーあ、伸びてますよ」
青白い顔をした面長の若者は、グニャリと地面に突っ伏した。
「見た目と同じで、生っちょろい奴だなぁ」
俺は、気絶した若者を仰向けに転がしてから、その貧相な身体をマジマジと眺める。年の頃、20代前半か。気弱そうな顔をした男だ。一体、何をやらかしてこの地獄へ送られて来たもんだか。
「全く、羽田さんは悪趣味なんだから」
並びの悪い黄色い歯を見せて、腹のたるんだ50男がニタニタと嗤っている。彼は、生前、量販店の安い布団セットを、海外輸入の高級品だと偽って、多くの年寄りから金を巻き上げたのだという。その武勇伝に違わず、一度喋らせれば「立て板に水」、虚実取り混ぜ、聞く者の心を鮮やかに手玉に取る。
地獄へ来たばかりの若者の不安を煽り、怖がらせるなんて、お手の物だ。
「お。もっと悪趣味な奴が来たぞ」
羽田が俺の背後を見ながら顎をしゃくる。振り向くと、色白で小太りのオヤジがノソノソと歩いて来る。
「おぅい! 新しい子が入ったんだって?」
何だその言い方。ここはキャバクラか。
「蒲田さん」
死亡当時の年齢も、ここに来た時期でも先輩に当たるので、一応弁えた態度を取っているが、俺はこのシロデブが嫌いだ。
「わぁ、中々の上玉だねぇ」
地べたに転がっている若者を見て、蒲田は薄い唇をベロリと舐めた。それから、当たり前のように彼の上に股がると、プニプニした掌でじっくりと痩せた身体を触り出した。
可哀想だが、こんなところで気絶した若者が悪い。自分の身は、自分で守るしかないのだから。
「おーい、見ないのかぁ、神田ぁ?」
「俺はいいですよ」
物好きな羽田は、ニタニタ笑いを深めながら、若者が蒲田に手籠めにされる様を見物にかかる。
誘いを断って、俺は彼らから距離を取ると、背を向けて腰を下ろす。
程なく、意識を取り戻したらしい若者の悲鳴が途切れ途切れに聞こえてきたが、やがて大人しくなった。観念したか、もしくは再び意識を手放したのだろう。
漆黒に霞む空をボンヤリと見上げる。
救いがないのは、死ぬ前も後も一緒だ。
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