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「ぅ……ううっ……ううっ……」
か細い泣き声が聞こえてきて、コトが終わったと分かる。まぁ、蒲田がこういう無体を強行する場面には、何度も遭遇している。幸い、俺は彼のタイプじゃないらしく、被害を受けずに済んでいるが。
とはいえ、強姦より恐ろしい鬼共の暴虐からは誰も逃れられない。俺がここに来た頃は、それこそ息つく暇もなく、惨殺と復活が繰り返されていたものだ。
しかし、最近は地獄にも亡者が増えて、鬼共の襲撃の間隔が開いてきた。そりゃそうだろう。地上の悪党は次々に送り込まれて来るというのに、ここから解放されるのは、凡そ6800兆年だったか――細かい数字は忘れたが、それくらい遥か先のことらしい。当然、地獄の亡者密度は上がる。鬼が亡者1人に関わる時間も短くなる。そうすると、責め苦の合間にもたらされる「何もされない日」というのが必然的に増えてくるのだ。蒲田みたいに、地獄まで来てなお邪淫の罪を重ねる亡者が出て来ても、仕方のないことだろう。
「あれぇ……何だぁ、ありゃあ?」
すっとぼけた羽田の声がして、思わず振り向いた。
身を縮めて泣き続ける若者と、満足気に大の字で寝入った蒲田。彼らから少し離れた所で、胡坐をかいた羽田が、何もない中空をポカンと見上げている。
「どうかしましたか、羽田さん」
「おう、神田。アレ、何だと思う?」
近づいて、彼が指差した辺りを凝視する。相変わらず墨汁に染まったような空しか見えないが――。
「あ……あれっ?」
何か、キラキラ光るモノがある……ような気がする。目をゴシゴシと擦って、ジッと注視する。
「なぁ? 何か……糸みてぇなモンが、下りてきてねぇか?」
糸? 確かに、そう言われたら、細い……幻みたいな糸が、俺らの上にゆっくりと下りてきている。これって、まさか……あの糸じゃないのか――?
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