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血走った彼らの目が、一斉に俺を睨む。
「全員だぁ? んな、都合の良い話なんかあんのかよ?」
短い沈黙の後、真っ先に口を開いたのは、羽田だ。
「そうだ、そうだ。上手いこと言って、僕らを騙すつもりなんだろう?」
若者が、相変わらず被害者意識丸出しの発言ながら、果敢に詰め寄ってくる。羽田のホラ話で気絶した軟弱さの欠片もない。そもそも、いつの間に「僕ら」なんて結託したんだよ。
「蒲田さん。アンタも、疑ってます?」
俺は、一番頭に血が上っていなさそうな蒲田をジッと見据える。シロブタは、口元をいやらしく歪め、肉付きのいい胸の上で腕組みした。
「うぅーん。まぁ、神田クンの作戦ってのも、聞くだけ聞いてあげてもいいかなぁ」
上から発言に胸焼けがしたが、ここは奴らを出し抜くために、我慢だ。俺は鉄面皮で頷いた。どいつもこいつも嘘吐きのエキスパート。下手な演技は通用しまい。
「じゃあ、まず座ってください。4人して立っていたら、目立ちます。何かあったのかと、気付かれちゃマズい」
彼らは、ハッと我に返り、慌ててその場に腰を下ろした。他の亡者共に見つからずに地獄を逃げ出したい思いは、全員共通だ。
「皆さんも、アレが極楽から下りてきた『蜘蛛の糸』に違いないと思ってますね?」
ぐるり、見回す。それぞれ無言で首肯した。
「ならば、話が早い。俺らは、あの話の主人公がした失敗を繰り返さなければいいんです」
「つまり……1人ずつ、上っていくってことかい?」
正面のシロブタが、チラリと上空を一瞥してから、俺を睨む。
「その通りです」
頷くと、フン、と羽田が鼻を鳴らした。
「待てよ。最初の奴が極楽に着いた後、残りの奴が上って来れねぇように、糸を切っちまわねぇって保証、あんのかよ?」
残りの2人も無言ではあるが、多少なりとも猜疑心に満ちた眼差しで俺に注目している。
所詮、罪人の集まり。他人を信じないのは、基本なのだ。
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