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「じゃあ、羽田さんは、糸を切るんですね?」
馬鹿め、その反論は想定内だ。挑発的な眼差しを冷ややかに受け止めると、俺は奴の言葉を逆手に取った。小さく唸った羽田は、他の2人の刺すような視線にハタと気が付いて慌て出す。
「お、俺ぁ切らねぇぞ! 切らねぇけど、他の……お前らが……」
互いを信用していないのは、胸の内では全員同じだが、それをあからさまに口にしてしまえば、ソイツの言葉からは説得力が消える。喩え、その懸念が正しくても、だ。
「助かりたい思いは、皆一緒でしょう? 糸を切るかもしれない人を、最初に上らせる訳にはいきませんね」
「なにぃ……」
羽田の赤ら顔がゆっくりと冷め、額に薄く汗が滲む。
「うん。それはそうだよねぇ」
「もちろんです」
「ぐぬぅ……」
これで、羽田が最初に上らないことは決定した。
内心ほくそ笑みながら、至極真面目な顔で一同を見回した。
「全員が助かるには、互いを信じるしかありません」
「紳士協定、ってヤツだねぇ」
さもありなんと、したり顔で蒲田が頷く。このタヌキめ。見た目はシロブタのクセに。
「2つだけ――」
突如、ピンと指を2本立てて、彼らの注意を引きつける。
「この作戦を成功させるためのルールがあります」
かつて国政の舞台で、並みいる野党からの批判や攻撃を丸め込んだ時の如く、確信に満ちた視線を送る。
「1つ目は、順番を守って1人ずつ上ること。2つ目は、上に着いたら、大きく糸を揺らすこと。それが、次の人が上り始める合図になります」
「なるほど」
神妙な面持ちで、納得が広がる。
第一段階は、俺の思惑通りだ。
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