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「で? どいつが最初に行くんだよ?」
胡坐に頬杖つくと、羽田は結論を急ぐ。だから、敢えてゆったりと頷いてやる。主導権は渡さない。
「はい。それが次の問題です」
すると、意外な場所から手が上がった。
「僕、身軽だから、最初に行きます!」
「ああ? 新入りが、何抜かしやがる!」
若者がチャンスとばかりにアピールするも、羽田に荒っぽく牽制されて身を縮ませる。臆病なのか大胆なのか、よく分からない奴だ。
「まぁまぁ。それについても、戦略があるんです」
「ふぅん。話してみて?」
険悪な空気を宥めると、蒲田は面白そうに促してきた。マウントを取っているつもりなんだろうが、アンタの首根っこを押さえる算段は出来ているんだよ。
「残念なことに、地面からあの糸までは、ちょっと距離があります」
座って見上げれば、なお遠くから、キラキラ澄まして俺らを眺めている。
「なので、まず糸を掴むには、羽田さんが言ったように、下で踏み台になる人が必要です」
うんうんと、得意気に頷く羽田。つくづく単純だよ、アンタは。
「羽田さんは、糸を切るかもしれませんので、1番目はダメです」
「いや、だから、あれはよぉ……」
ダメ押しすると、眉尻を下げた情けない顔になる。
「そして、蒲田さん。アンタの体格じゃ、糸を上るのは難しい。アンタは最後です。糸をしっかり掴んでいてくれれば、俺ら3人で引っ張り上げます」
シロブタの瞳がキラリと歓喜するのが見えた。
「じゃあ、やっぱり身軽な僕が!」
途端、ハイハイとアピールを再開する若者。俺は、冷淡に首を振る。
「いいや。キミは、悪いが信用できない」
「何でだよっ」
「キミは、ここに来たばかりだ。それに、蒲田さんに襲われた時、誰も助けなかった。俺ら全員を恨んでいるかもしれない」
「そ、それは……」
彼の頰がサッと朱に染まる。図星らしい。鬼共から与えられる虐殺と復活の無限ループを体験する前に、亡者仲間からとんでもない性的苦痛を受けたのだ。憎しみ以上の感情を抱いたところで少しも不思議はない。
「だから、俺が最初に上ります」
「ああ? 神田、てめぇ!」
「待ちなよ!」
俄に嫌悪を露わにした羽田を、いつにない強い口調で蒲田が制した。
「不安はあるけどさぁ、神田クンの話は、一理あるよねぇ」
楽して極楽に行ける俺の案に、デブの蒲田が賛成するだろうことは、計算通りだ。
「それじゃあ、順番は……」
若者が最終確認を促す。
「俺の次は、まだ支える人が2人居るので、羽田さんです。キミは身軽だから、蒲田さんに肩車してもらえば、何とか届くだろう?」
2番目ということで納得したのか、羽田は仕方ないという素振りで唇を結んだ。蒲田がニタリといやらしい目つきで見遣ったので、若者は瞬時に青ざめた。
いずれにせよ、こうして第二段階も俺の思惑通りに事が運んだ。
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