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 組体操の人間ピラミッドの要領で、羽田と蒲田が土台になり、その上に若者が四つん這いになった。 「じゃあ、お先に行きます」  一礼して、彼らの背を踏み台にして上る。俺の目の前で、虹色の糸が蠱惑的に揺れる。この先に、責め苦からの解放、自由が待っている。俺は、1つ深呼吸して、糸を握った。  思ったより細い。切らないように慎重に、力をかける。体力に自信のある方ではないが、ここ一番、全身全霊をかけて、身体を持ち上げていく。  切れるな……頼む……切れないでくれ……!  ひと握り毎に、願い、祈りを繰り返す。額からじわりと滲む汗が、顎を伝う。  糸が切れることに加え、滑りを心配したが、流石に「蜘蛛の糸」だ。糸表面の適度な粘つきが、上手い具合に滑り止めの効果を発揮している。  元々地獄は薄闇の世界だった。下から望む天空は、不透明な漆黒に覆われていたが、その中に自分が突入すると、何層にも折り重なった黒い幕の中を進むようだ。虹色の輝きを放つので、かろうじて、掴むべき糸は見える。  腕が、肩が、腹筋が、腿が……溜まった乳酸でパンパンに張っていく。奥歯を噛みしめ、ただただ上だけを睨んだ。  そうして、どのくらい経っただろうか。  疲労で折れそうな心を鞭打って、痺れる腕を懸命に伸ばした先が、ぼんやりと明るくなってきた。  そうすると、俄然気持ちが強くなる。  もはや流れる汗もなく、すっかり息も上がっているが、もう一息、もう一息と自分を鼓舞して上り続ける。  少しずつ、辺りに柔らかな光が満ちてきた。  暖かな真綿に包まれているような……幸福な感覚に浸され、疲れた全身に力を注いでくれるみたいだ。  極楽が近い――希望が確信に変わる。俺はもう、夢中だった。
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