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 空を見てみろ。ああ、そうだ。黒雲が煙幕みたいに覆い尽くしてやがる。だから、ここいらは、どこまで行ってもドンヨリした薄闇だ。昼も夜もありゃしねぇ。ああ、尤も、ここじゃ、時間なんてどうでもいいこった。つまんねぇこと言っちまったな。  ここに居るのは、どいつもこいつも死に損ないだ。亡者なんて言やあ、カッコいいが、要は人間の成れの果てって奴だ。元々屑みたいなモンが辿り着く場所だからな、どんな言い方したって大して変わりゃしねぇだろ。  何にせよ、ここに連れて来られる途中の火山の熱と炎で、喉は焼け、肺は潰れちまう。鼻には硫黄と腐肉の饐えた臭いがこびりつき、(まなこ)だって血や膿で塞がって見えやしねぇ。  火ぶくれした皮膚は醜く爛れ、身体中に刻まれた傷口はパックリと裂けたまま。誰も彼も裸で、地べたを蛆虫みたいに這いずり回るしか出来ねぇんだ。  そうこうしてると――鬼達がゾロゾロやって来やがる。ああ、鬼だ、鬼。額から牛みてぇなぶっとい角を生やして、獣と同じ牙がニュッと口からはみ出して……ギラギラした赤い目をした赤鬼だ。  そいつらが、でっかい固い足で、地べたの死に損ない共を踏みつけていくんだよ。ガキが蛙を潰すみたいに、次々とな。  潰された死体がどうなるかって?  お前、そんな真っ青な(つら)晒しといて、まだ聞きてぇのか? フン……まぁいい。  死体はな、鬼が片付けんだよ。ここを真っ直ぐに……ずぅっと行くとさ、鈍色(にびいろ)の大釜があって、真っ黒のドロドロした液体が泡を出しながら煮立ってるんだ。そん中に、鬼は踏み潰した死体を放り込む。大釜の周りには長い鉛の棒を持った鬼共が居て、死体をグチャグチャ突いてさ……グズグズに溶かすんだ。  それで、その黒い液体をウーンと煮詰めるとな……また人間が戻るらしい。  あん? 信じてねぇな?  まぁ……この辺は俺もよ、聞いた話だから確かじゃねぇんだが……何にしても、そうやって俺ら罪人(・・)は、繰り返すんだよ。鬼共に嬲りモンにされて、虫ケラみてぇに潰されて……んで、大釜で溶かされた挙げ句、また殺されるために生まれ変わるんだ。気の遠くなるくらい、死ぬほど長い時間をなぁ。うん? あぁ、そうだった。俺ら、もう疾っくに死んでるんだったな、へへへ……。
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