出現

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

出現

その日は突然やってきた。 「おい泉、これ見ろよ!」 土井はそういうと、作業していたパソコンを泉の方に向けた。 「ちょっと先輩、仕事中に何見てるんですか。」 画面には、民家を潰しながら移動する巨大な生物が映っている。泉は小さな頃に見た特撮番組を思い出した。しかし画面のそれはもっとリアルだ。 「映画か何かですか?」 「いや、これ現実だって。しかもここからそんなに遠くないぞ。」 土井は興奮気味に答えた。泉は土井のデスクに近づくと、しっかりとその映像を確認した。ドローンで撮影しているのだろうか。画面右上にはLIVEの文字が浮かんでおり、その中央では、民家よりはるかに大きな黒い塊が、ゆっくりと歩きながら家屋や電柱をなぎ倒している。その姿は巨大化したカメレオンのようだった。 場所は泉たちが働いている研究所から20kmほど離れた、山々に囲まれた街だ。つい数ヶ月前に、例の観測機を設置したことがあったので、上空からの映像でもしっかりと場所が把握できた。 「何ですかコレ、めちゃくちゃヤバいじゃないですか!」 「そうだよな。まだ距離があるから、俺は一度本部に連絡を入れて判断を仰いでみる。泉は念のため避難する準備をしておいてくれ。」 「わかりました。」 「で、國宮はどこに行った?」 「えっ、そういえば30分ほど前にちょっと休憩してくるって出て行ったきりです。」 「おいおいまずいな。悪いが國宮に1本電話入れてくれ、まぁ年中留守電にしてるヤツだから出ないかもしれんが、連絡をよこすよう伝えてくれるか。」 泉は頷くと、デスクに戻って電話を手にとった。 「まったく、まだ国龍様にも慣れてないってのにどうなってんだ。本当にここは、俺の知ってる日本か?」 土井もデスクの電話を取ると、本部の短縮を押して受話器を耳に押し当てた。 國宮は愛車の黒光りする大型SUVから下りると、バックドアに周ってドアをあけた。車を停車させたのは、湖や池も無いなだらかな丘だ。 用意したグローブを付けると、シート下の隠れた収納部分から、自分の背丈より少し長い、1.8m程の細長い箱を取り出すと、中から1本の釣竿を取り出した。 「おっと、先にやることがあったな。」 國宮はいったん釣竿を車に立てかけると、バックドアから2本の例の観測機と1本のハンマーを取り出した。観測機は普段仕事で使用しているものとは若干異なり、下端部が杭のように尖っている。 1本目の観測機を地面に突き立てると、ポケットから取り出した打具を観測機に被せ、ハンマーを振り下ろした。10回ほど振り下ろすと、半分ほどが地面に埋まる。もう1本は10mほど離れた場所に、同じように設置する。 続いて車から1台のドローンを取り出すと、電源を入れるだけで2本の観測機の中央へと飛行し、少しずつ上昇すると一定の位置でホバリングを始めた。 「よし、いよいよだな。」 再び車のバックドアに戻ると、車内に設置された操作パネルの電源を入れる。セーフティーを解除し、スイッチを押すと、2本の観測機とドローンが次第に眩い光を放ち始めた。その動作を確認し、クーラーボックスから人の頭ほどの大きさの肉塊を取り出すと、先ほどの釣竿の糸を引き出し、ぐるぐると巻いて先端の大きなフックを引っ掛けた。ほぼ同時に、國宮の設置した2本の観測機とドローンの間を光の線が結び、光り輝く正三角形が浮かび上がった。 國宮は頭の中で再確認する。 ここの土地一帯は、昔から整備されずにありのままの自然が残っている。 山があることで、大きな生物でも身を隠したり、縄張りを明確にして過ごすことができる。俺の勘では、きっとここに居る。 「頼むぞ!」 息を短く吐くと、國宮は力強く握った釣竿の先に取付けた肉塊を、砲丸投げの要領で体の周りで回転させ始めた。糸は飛び出さないよう指でロックし、しっかりと自分の体重を先端のエサへとかけていく。そして回転スピードが最高潮に達した時、指のロックを外して糸を解放した。 「いっけぇええええぁっ!!!」 手元のリールは目に見えないスピードで回転し、肉塊は一直線に光の三角形を目掛けて飛んでいく。そして勢いを失わないまま、光り輝く境界を貫いた。 さぁ、来い!
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!