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龍を釣る者
「イズミ!クニミヤから連絡はあったか?」
土井は受話器をもったまま尋ねる。
「いえ、留守電は入れましたが、音沙汰ありません。」
「くそっ、こっちもまるで繋がらん。」
土井は受話器を置くと、画面に映る異様な光景を再確認した。
「ここもいつ危なくなるかわからん。いったん避難するぞ。イズミ、お前自分の車運転できそうか?」
「いえ、正直テンパってて自信ないです。」
「わかった。じゃあ俺の車に荷物を積め。すぐに出るぞ!」
2人は重要な資料と持ち物を車に積むと、勢い良く研究所を後にした。
土井はいつも通りブツブツと言いながらも、しっかりと車を流していく。
パニックの中で普段使用する道は渋滞して居たため、遠回りで迂回するルートを選ぶ。
「やっぱり國宮の車無かったな。あいつ休憩ってどこまで行ったんだよ。」
「大丈夫ですかね。」
「あいつならきっと・・・。」
そのとき助手席の泉の目に、遠くの丘で何か光るものが見えた。
「センパイ、あの車クニミヤさんのじゃないですか?あの光ってるところの」
土井は速度を落とすと、泉の指差す方向を見た。
「あぁ、確かに。ここらじゃあんなでかいSUV乗ってるやついないからな。しかしなんだあの光は。」
2人の目線の先には、遠くてもはっきりわかるほど大きな光の三角形が、
丘の上に揺らめいていた。その場所から少し離れた場所に人影が見える。
「行こう。」
土井は再びアクセルを踏み込んだ。
「さぁ、来い!」
肉塊が光の中に飛び込んで3秒ほど経ったとき、國宮は糸の強い引きを感じた。リールが勢いをまして糸を放出していく。
「来た!!」
國宮はすぐさま車に駆け寄ると、竿を握ったままバックドアに付属したハシゴを駆け上った。車の上に登ると、釣竿を専用の留め具に固定し、糸を自動制御モードに切り替えた。すると糸は強い引きを感じ、車ごと2m程光のほうへ引きずられる。國宮はバランスを崩して地面に落ちたが、しっかりと着地して運転席側のドアを掴み、中へと飛び乗った。
「いくぞ、相棒。」
ブレーキペダルを踏みエンジンをかけると、シフトレバーをローに入れ、サイドブレーキを下ろすと同時に、アクセルペダルを思いっきり踏み込んだ。大型SUVのエンジンは地響きのような唸り声を上げ、タイヤが大地をしっかり掴む。抵抗を感じつつも、車は少しずつ前進を始めた。
「さぁ、顔を見せろ!!肉を離すなよ!」
車はジリジリと前進する。一瞬の抵抗の緩みを感じると
シフトレバーを一番下の赤いXに下げた。
エンジンは、もはや大地を揺るがすほどのパワーで鼓動している。
「うらぁぁぁぁっ!!」
アクセルをこれでもかと踏み抜いた時、三角形の光の壁から巨大な青い顔が姿を表した。長く力強い首、鋭い爪を携えた前足、背中には大きな翼が生えている。バランスを崩したその生き物は、前のめりになってこちら側の世界に倒れこんだ。
「よっしゃあ!」
國宮はその様子を確認すると、ドアを跳ね空けてその生き物に駆け寄る。
顔の先から尻尾の先まで、前兆15mはあるだろうか。光の中から飛び出して来たのは、巨大な青い竜だった。
國宮は自分の方ほどまである龍の顔の前に立ち、その2つの黄色い目に見つめた。
「さぁ契約だ。この先で1匹の土竜が暴れている。そいつを倒したら、お前をもとの世界にリリースしてやる。いいな。」
龍は國宮の目をしっかり見つめると、体制を整えて大きな翼を天高く掲げた。次の瞬間翼を素早く地面に振り下ろすと、目的地に向けて力強く羽ばたき始めた。
「すげぇ、アイツ龍を釣りやがった。」
土井と泉は、まるで夢でも見るかのように、その光景を見守っていた。
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