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「今時、ドラゴンは流行ってないよ。それよりもゾンビさ。ゾンビはここ数年、ずっと1番人気だよ」  そう言われると心が揺らぐ。確かに街にはゾンビがうようよしている。国民性なのか、我が国では流行りに乗る人たちが少なくない。みんな同じゾンビになって、ゾンビ同士でつるんで、夜な夜な奇妙なダンスパーティーをしたりしている。そこにドラゴンが混ざっているのをあまり見たことはない。せいぜいボーンと呼ばれる骸骨の奴らくらいだ。  今の世の中は二十歳を境に大きく変わる。二十歳を超えると自分の好きな生き物に、自分の意思で変わることが出来る。かなり昔には、論理がどうとかで世界的に禁止されていたらしいが、時代は移り変わり、今となっては人間のままで一生を終えるひとのほうが圧倒的に少なくなっている。ちなみに一度だけ、人間に戻ることは許させれているが、人間に二度なった者は(産まれるときはみんな人間なので、それを一度目とカウントする)二度と他の生き物に変わることはできなくなってしまう。  少ないドラゴン仲間と愉快に暮らすか、それともみんなに倣ってゾンビとなり、夜な夜なパーティーに明け暮れるか…。選択肢は二つだけではないはずなのに、変生所(と呼ばれる所で違う生き物に変えてもらえる)で言われた言葉が脳裏から離れない。ドラゴンか、ゾンビか、ドラゴンか、ゾンビ……。 「お前も早く決めたほうがいいぜ」 「そうそう、悩んだって時間の無駄」  揃ってゾンビになった友人ふたりが、肩を組みながらいい加減なアドバイスをしてくる。  「お前らは何でゾンビになった訳?」 「何でってなぁ。なりたかったからに決まってるじゃん」  俺はこのふたりとは十年来の友人だ。でもガキの頃からゾンビになりたいと言っていた記憶はない。ゾンビになることは知っていたが、なりたいと言っていたのはつい最近だったはずだ。ガキの頃はどちらかと言えば、可愛い生き物とかになりたいって言っていたような。  「確かさぁ、ジンノは犬とか猫になりたいって言ってたよね。ハルキはユニコーンとか言ってなかった」  ふたりの半分崩れ落ちた顔が、みるみる赤くなってくるのがわかった。 「お前、いつの話ししてんだよ!ガキの頃の話しだろ!二十歳にもなって、猫になりたい奴なんていねぇよ」 「俺だってユニコーンって言ってのは、随分前だぜ。人は成長するのよ。な、リュウジン」 「お前は引っ張りすぎなんだよ。昔からドラゴン、ドラゴン…て。まあ何でドラゴンなのかはわかるけどな」今度は自分の顔が紅潮していくのが、見えなくてもわかった。 「別に、名前がリュウジンだからって理由だけじゃねぇし。もろちん他にいっぱいあるし…」言葉に詰まった俺を見て、ふたりは「まあいいさ、理由なんて。ただドラゴンはちょっと古臭いしな」 「そうだぜ。一緒にゾンビになろうぜ。お前がドラゴンになったら、あんまり遊べなくなっちまうだろ」  ふたりに言われたことに言い返すことも出来なかった。古臭い、ふたりと遊べなくなる…そう言われると元から揺らいでいた気持ちが、益々ぐらぐらと揺らぐのを感じずにはいられなかった。  俺のドラゴンになりたい気持ちってこんなに軽かったのか!人にとやかく言われて、ずっと憧れていたドラゴンって夢を、簡単に諦めるのか!ちくしょう!どうすりゃいいんだよ……。
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