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父との再会
通されたのは、広いリビングルーム。テレビドラマに出てくる、お金持ちの家にそっくりだ。張りのある茶色い革張りのソファー。分厚いガラス張りのテーブル。
壁には、副島と書かれた数々の賞状がズラリと飾られている。そして戸棚の上には、たくさんの家族写真が並べられていた。どれもこれも、わたしには、縁のないものばかり……。
「こっちよ」
姉に案内されるまま、リビングルームを抜けて、父の部屋へと向かう。父は、父の亡骸は、その部屋に居た。
「わたしの夫よ」
「初めまして。義兄さん」
父の枕元に立つ姉の夫に挨拶をする。義兄は渋い顔のまま、わたしを見もしない。相続の話が気にいらないのだろうか。
「父のお顔を見せていただきたいのですが……」
「どうぞ」
「失礼します」
両手で丁寧に、白い布を捲る。顔色は青白いけれど、最後に会った日のように、とても安らかな顔をしている。鼻の詰め物さえ無ければ、眠っているようにしか見えないだろう。わたしは父の普段の顔すら、じっくり見たことはないけれど。
「綺麗なお顔ですね。まるで、眠っているみたい……」
右手で頬を撫でると、父の肌はひんやりと冷たかった。固く閉じた唇が動く事は、もうないのだ。あの日のように、話しかけてくれる事も。優しく笑いかけてくれる事さえも。そう思うと、ああ、父は本当に亡くなってしまったんだと実感できた。
「それで、話なんだけどね……?」
「あの、お姉さん……」
負の感情から、キッと力強く姉を見つめる。
「場所を変えてくださいませんか? お父さんの前で話すことでは、ありませんので……」
「……それも、そうね」
たとえ、亡骸であっても。父の前で、相続の話などしたくはない。再び白い布を被せ、父の部屋を後にした。義兄は父の傍を離れない。わたしには義兄が父を見張っているように見えた。
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