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欲しいモノ
「あの、お姉さん……」
「なによ!? まだ、なにかあるの?」
姉の手に力が入り、爪が皮膚を刺激する。だけど、わたしは怯まない。
だって、わたしの欲しいモノは、きっと。この部屋の中にあるもの。
悟られないように、慎重に。姉から話を聞き出さないと。
「お父さんは普段、この部屋で過ごしていたんですか?」
「そうよ! それが、何!?」
再び、肩を掴む指に力がこもる。姉を刺激しないように、注意しないと。
「お父さん、手帳を持っていませんでしたか? 茶色い革の……」
「手帳? ……そうね。そういえば、いつも持ち歩いていたわ」
ドクンと心臓が跳ねる。それだ。わたしの、欲しいモノは。
「それに、書いてあるのかも……。見せてくれませんか!? わたし、知りたいんです! お父さんが、どうしてそんな遺言を残したのか!」
「……わかったわよ」
諦めからか、僅かな期待からか。姉は力無く答えると、わたしの肩から手を離す。そして再びデスクの引き出しを開け、手帳を取り出した。所々に小さな傷のある、茶色い革の分厚い手帳。紙が挟まれているのか、本の背よりも少しだけ厚みがある。
「その一冊だけよ。父さんの使っていた手帳は」
「ありがとうございます……」
受け取った手帳は、ズッシリと重かった。まるで、わたしの秘密のように。
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