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自称悪魔
道端に落ちている石ころを、周りの家にぶつけないように思いっきり蹴る。これが最近の自分なりのストレス解消法。
今日も道端にちょうど良い丸っこい石を見つけた。
秋山は一旦足を丸く靴の中で丸め、力を抜いた。息を大きく吐き、石に滝川の顔を思い描く。
次の瞬間、思いっきり足を石にぶつけた。声まで荒げなかったのは自身の卑怯さ故か。
石は案外遠くに飛び、大きく弧を描いた。石がちょうど弧の頂上付近に達した時、秋山は遠くに一人の青年を見つけた。
どうせ当たらない。そう秋山は高を括り、再度石に目を移した。
しかしどうしたことか、それまで綺麗に弧を描いていた石は、青年の頭にに吸い込まれるように落下していってる。
「あ、危ない!」
咄嗟に叫んだ声とは裏腹に、石はあっけなく地面に落ちた。
考える暇もなく、秋山は青年の方へ頭を下げながら、駆け足で向かった。
「すいません! 大丈夫ですか!?」
青年の横に到達する前に、秋山は声をかけた。声に共鳴する様に、青年がゆっくりとこちらを振り向く。
「復讐、したくないか?」
「え?」
最後に何を言ったのかなは聞き取れなかったが、最初の二文字は辛うじて聞き取れた。復讐。確かに青年はそう言い放った。
「あ、あの、本当にすいませんでした!」
「何でお前が謝る」
地の底から響くような声で、青年は秋山に問う。
「え、だって、今石が当たりそうで」
「お前が蹴った石のことか、あんなもの悪魔の俺には通用しねぇよ」
自信満々に胸を親指で指し、自身を悪魔と呼称する青年。次第に秋山はそんな青年に疑心の目を向けるようになった。
「あ、あの、悪魔とかよく分からないんですけど」
特に謝意も込めずに、秋山は深々と頭を下げながらそう言った。
「なんだ、悪魔を知らないのかよ、あの矢尻みたいな尻尾にデカいツノが生えていらやつのことだぞ?」
自称悪魔はそんな事を言いながら、自分勝手に首を傾げている。
「あはは、それじゃあ僕はこれで失礼しますね」
頭を上げぬまま秋山は薄ら笑いを浮かべ、青年の横を走って抜けた。幸いなことに自宅はもう目と鼻の先だ。
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