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晩餐
親の目を掻い潜り、必死にキッチンから盗み込んだカップ麺は、さっきまで復讐のプラン立てをしていた物騒な悪魔に笑顔で突かれている。
「しかし人間の食い物は不思議だな! 何せお湯を入れれば完成するもんな!」
「魔法の方がよっぽど不思議だと思うけど」
秋山の皮肉もいいところに、タイマーが音を上げる。
「お、時間か!?」
悪魔とは思えない輝きを放つ目に、秋山はクスリと笑った。
「何だよ気持ち悪いな、先に食うぞ」
秋山に好奇の目を向けながら、悪魔は『味噌ラーメン』と太文字で書かれた容器に、手をかけた。
「さっきからミソっていうのが気になってたんだよなー」
短く歓声を上げながらフタを開く姿は、まるで新しくおもちゃを買ってもらった子供のようだ。
「この二つの棒で、その長いやつをすくって、こう食べるんだ」
秋山もカップ麺を開け、麺を啜った。味噌の味が麺に染み込んで意外と美味い。
「音を立てて食うのか?」
「普通はそうだよ。できないなら無理しなくていいけど」
そう言うと何を思ったのか、悪魔は大きく息を吐いた。
次の瞬間、容器からこぼれ出るスープなんかお構いなしに、悪魔はズルッ、ズルズル、と心地よい程豪快に麺を啜った。
「あ、おい! 何、床にスープこぼしてんだよ!」
「何だ? そんなに悪いことしたか?」
何故咎められてるのか分からない悪魔は、床を拭く秋山を尻目に麺を啜っていった。
「やっと拭き終わった‥‥」
秋山はベットに腰を下ろし、額から滲み出た汗を拭き取った。
当の本人である悪魔は、まるで一仕事終えたように、床の上に仰向けで寝そべり、ただ虚空を見つめている。
「なぇ、何か僕に言うことあるんじゃない?」
ベットの上で、大きく息を吐いた後、秋山はわざと重たく口を開いた。
「何だ、もしかしてコースの変更か?」
「そうじゃなくて、部屋にスープこぼしたでしょ。おかげで床シミだらけなんだけど」
秋山の顔とは対照的に、悪魔は寝返り、とぼけた顔を見せた。
「お前、もしかして俺に怒っているのか?」
その短い問いには、怒りとも取れない複雑な感情が垣間見れたよう気がした。
秋山は恐怖に怯え、今自分の前にいるのは本物の悪魔だと再認識する。
秋山の口元が、次出す言葉を探していると。
「ハハッ、なんて顔してやがる、ハハハハハ!!」
張り詰めた糸が吹っ切れるように悪魔が笑い、張り詰めていた部屋の空気が、一気に弛緩する。
「怒ってないの?」
恐る恐る聴くと。
「いや、生まれてこのかた、人間に怒られたのは初めてでな」
まだその顔に微笑みを浮かべがら、悪魔は言った。どうやらかなりツボに入ったらしい。
「これからは俺がお前の相棒だな!」
そう言い、悪魔は大袈裟に笑いながら右手を差し出してきた。
「よろしく! 相棒!」
相変わらず悪魔の右手は冷たかった。
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