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静まりかえった教室には、シャープペンシルが奏でる音しか流れていない。
後藤が佐藤の机を見てから約二時間が経つ。すでに二時間目が終わっている時間帯だ。
先生が今後の対応について長く会議しているのか、佐藤の件に関しては未だに進展がない。
痺れを切らした秋山は、広げたノートひたすらにペンを押し当てていた。出来ることならあと少しだけ佐藤の苦しむ姿が見たかった。
そのあとはスクールカウンセラーとかを受診して、適当に回復すればいい。それが秋山の本音だった。
静かにシャー芯に八つ当たりしていると、微かに女子たちの話し声が聞こえてきた。秋山は咄嗟に耳を傾ける。
「ねぇ、莉華ちゃんの机、誰がやったと思う?」
「やりそうな人、このクラスにいるかな? 莉華誰にも嫌われてないんだと思うんだけど」
いつの間にかに形成された、一軍女子の軍団は先生の目を盗んで、静かに話している。
もっとも先生の目を盗むと言っても、教室のドアに三軍の女子を見張りに立たせると言う、簡素な見張りだ。
「でさぁ、私思うんだけどね、隣のクラスの立花さんが怪しいと思うの。こないで莉華に選抜の合唱枠取られてたし」
「あ、それ私も思った。そうだよね立花さんとか怪しいよね。でも案外、犯人は外部の人だったり」」
「あー、それもありえるかも」
いるはずも無い犯人探しが佳境に入り始めた頃。教室のドアがガラガラと大きな音をたて開く。
ハゲきった頭皮に、気持ちばかしの髪を生やした中年男が教室に入ってくる。担任の湯川だ。横には目を赤くした佐藤の姿がある。
「皆さん。静かにしてください。犯人は学校で捜査しますから、犯人探しはやめましょう」
湯川は両手を大きく広げ、生徒たちを落ち着かせる。次第に教室は静かになっていった。
事前に決めてあったのか、湯川が軽く合図すると佐藤がゆっくりと自分の席に戻った。道すがら「大丈夫!?」と聞く声が、いくつか聞こえた。
佐藤が自分の席に落ち着くのを見て、湯川が話し始めた。
「皆さんも知っていると思いますが、今朝、佐藤さんの机に酷い落書きがありました」
湯川が話始めると同時に、教室は静謐な空気に包まれる。
「犯人はまだ分かっていません。これは立派な犯罪で犯罪です。学校側は犯人が見つかり次第警察に報告します」
犯罪。警察。この二つの単語が湯川の口から出るのと同時に、クラスの過半数は不安を顔に表した。秋山浩二。ただ一人を除いては。
湯川が「これから臨時の職員会があるので、生徒の皆さんは下校です」と言った頃、秋山の顔は薄ら笑いに染まっていた。
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