執行

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早く来すぎてしまったせいか、校舎には生徒も先生の姿も見えなかった。 校舎の裏に着いた秋山は、辺りを見回した。やはり丸眼鏡の姿はどこにも見えない。 仕方な秋山は、すぐ側の切り株に腰をかけた。しばらく日光に照らされ、憂鬱に浸っていると。 「こんな朝早くに呼び出してなんだよ」 数ヶ月前までは毎日のように聞いていた声が、校舎の影から聞こえた。 「沼田、来てくれたのか」 目線を動かさずに、口だけでそう言う。土を踏み締める音が、こちらに向かって聞こえた。 「だから何のようなんだよ。あれか、滝川にいじめられているから助けてくれとか言いに来たのか?」 「そんなつもりは無いよ。ただ聞きたいことがあるのと、ちょっとした警告に」 琴線に触れたように、沼田が『警告』という言葉に反応する。 「なんだよ警告って、お前、俺になんかするのか?」 久しぶりに話すうちに、一人称も僕から俺に変わっている事に、秋山は少し動揺した。 しかし動揺を悟られては、こっちが不利だ。秋山は咄嗟にうっすら笑ってみせた。 それを教えて欲しかったら、こっちの質問に答えろということか?」 察した沼田は、人差し指で眼鏡を押し上げた。 「そういうこと。さっそく答えてもらうよ」 あくまで余裕の表情を崩さずに、秋山は質問した。 「と言っても質問は一つだけ。なんでいきなり 僕とは話さずに、滝川の下僕みたいになったの?」 秋山はわざと目を丸くして聞いたみたが、だいたいの目星はついている。 「お前といるとクラスのカーストの中じゃ最下位だからな。だからさっさとクラスのリーダー様にあやかったわけ」 そう言うと、沼田は言ってやったぞとばかりに鼻を鳴らした。 「そうか、言ってくれてありがとう。じゃあ僕からも警告ね」 秋山は切り株から立ち上がった。 「今日中にお前に不幸が訪れる。だから気をつけなね」 「は? お前何言ってるんだ?」 「言葉の通りだよ。じゃお元気に」 そう言い捨て、秋山は校舎の方に踵を返した。その顔には優越に浸った笑みが浮かべられている。
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