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討伐前のひと時(本書から除外予定)
「伝説なんて、知らない。あたしには、家族だけだった。でも、守れなかった」
最後の方は聞こえるかどうかの声量で、私の問いに彼女はそう答えた。
先ほどのは、君のことでは無いのだが、とそう言いかけて止めた。
これに触れるのは、野暮ってもんだ。
さて、色んな考えや話をしている内に、ようやく目当ての島が見えてきた。
最後の(となるかもしれない)旅路、飽きずに来れたのは、イレギュラーな彼女のおかげだ。剣技よりも得意とする、料理を振舞えたことが、特に大きい。
その色んな話、は次の通りだ。
「お礼をするから、あの島まで連れて行って」
今朝、彼女から言われた台詞だ。
どこかで私の噂を聞いたのかもしれない。まだ、私の旅の目的も伝えていなかったが、この、無謀ともいえる戦いに、彼女はそう志願してくれた。
100人の敵を相手に勝利できる彼女が同行してくれるのは、とても心強かった。
「剣?それなら、島にたくさんあるよ。どれでも持っていけば?」
ドラゴンメイドの討伐に向け、彼女の装備の確認として「剣は?」と尋ねたことへの返答だ。
持っていけば、つまり師匠の刀は変えろ、と暗に言っているのだろう。
甘く見られたものだ、とプライドを久方ぶりに刺激されて、そうつぶやいていた。この発言には私自身が驚いた。
「ん?甘く見る?…島に着いたらデザート出してくれるってこと?」
私が微かな殺気とともに言ったことへ、彼女は目を輝かせそう言った。
…こんな彼女に、依頼を持ってきた最初の使者を気絶させた程度の、殺気を向けた自分を恥じる。
その強さ故か殺気をまったく意に介さず、期待の眼差しを向ける彼女に、プリンを提案した。
「家族が良く作ってくれたわ、懐かしいわね」
瞬時に「依頼が片付いたら、必ず作ってあげよう」と約束を持ち掛ける程、憂いを帯びた守りたくなる表情だった。そのまま伝えたらそっぽを向かれた。
「・・・」
最後に、片付けられるのが私かもしれないが、「不死」の名に恥じぬよう、死してなお、約束は果たすと彼女に言ったが、返答は波に打ち消され、私には聞こえなかった。
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