面接

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面接

立花ユリは、パンフレットを読み進めていくうちに、ここに来るまで抱いていた淡い幻想を、希望に満ち溢れた確信へと変わっていた。パンフレットには、いかに自社が社員を大切にし、社員の自己実現を尊重しているか、あるいは、社員の夢の手助けをしているのかを懇切丁寧に書いていた。 立花は、自らが叶えることの出来なかった夢を、自然とこの会社が作り上げた幻想に投影させていた。もし、この会社で働けば、自分は教師という夢の代わりに、新たな夢をこの会社で実現することができるかもしれない。そうしたことを彼女は考え始めていた。彼女は期待を風船のように肥大化させていった。風船が肥大化すればどうなるか。こんなことは小学生でも知っている。破裂。ただそれだけだ。 立花ユリはまた同じ過ちを繰り返そうとしていた。過度な期待を持ち、身の内に膨れ上がらせて、破裂させてしまう。そして、その期待を抱かせた責任者を探し、影で罵倒する。「すべてはあいつのせいなんだ」と。しかし、社会というシステムは、古来からこうした仕組みで成り立っているのだ。つまり、愚か者は時間や金、労力を可能な限り搾取され、賢い者がそれを上手く利用するということ。実にシンプルで、合理的な仕組み。そして、賢い者たちは、そうした仕組みを巧妙に隠蔽し、愚か者を騙し続ける。彼らが悪者かといえば、その通りだとは言い切れまい。なぜなら、愚か者もまた、自身よりもさらに愚かな者から多くのものを搾取をしているからだ。彼らもまた同じ穴のムジナなのだ。
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