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面接
唐突に扉が開いた。廊下からガタイが良い中年の男性が部屋に入ってきた。髪は綺麗に短く刈り上げられ、小洒落たストライプのスーツを着ていた。また、ブーツも入念に磨き上げられ、男のこだわりが細部まで行き届いていることを周囲の人間に知らしめていた。首に掛けられた名札ホルダーには、「株式会社〇〇 人事部 課長 水野忠」と書かれていた。それを見て、立花は慌てて立ち上がり、危うくテーブルに置いてあったお茶を溢しそうになった。
「はじめまして水野と申します。遅くなってしまい、申し訳ございません」
見た目とは裏腹に、物事の柔らかい口調の水野に対し、立花は驚くと共に、好感度を持った。
「は、はじめまして。立花ユリと申します。だ、大学は△△大学で、教育学部に所属しておりまふ。ほ、本日はよ、よろしくお願い致します」
これまで何度も何度も同じ台詞を読み上げてきたにも関わらず、立花は未だに用意してきた台詞を噛み続けていた。
「はい、よろしくお願い致します。どうぞ、おかけになってください」
「はい、失礼いたします」
彼女はそう言い終わると、背筋を竹の子のように伸ばし、席に座った。
「立花さんですよね?」
「はい」
「緊張してる?」
「…はい」
「そうだよね!ハハ、いや、ごめんね。こんなおっさんが面接官だと何かやり辛いよね?」
水野は自嘲的に自らを貶すことで、立花の緊張をほぐそうとした。
「え、いや、そんなことないでしゅ」
「え、ほんと?うーん、じゃあ、質問です。今日のお昼は何食べられましたか?」
「え、何だったかな?あ、オムライスを食べました」
「へぇー、どこのオムライス?」
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