面接

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面接

「実家のオムライスです。母が作ってくれた」 「あぁ、お母さんの手作りね。いいなぁ。俺も今晩嫁さんに作ってもらおうかな」 こんな調子で水野と立花はそれから十五分ほど雑談を重ねた。雑談を重ねる中で、立花の緊張は次第にほぐれてゆき、水野に対する警戒心も薄れていった。それは彼女の姿勢からも明らかなことで、始めは竹の子のようにまっすぐだった背筋も、次第に和らいでいき、最終的には猫背になっていた。 水野はそうした様子を観察しながら、本題に入るタイミングを見計らっていた。 「どう?立花さん、緊張ほぐれてきたかい?」 「はい。おかげさまで今はだいぶリラックス出来ています」 「うん、それじゃあ、早速うちの説明会を始めるね」 そう言うと、水野はタブレット型の端末を取り出し、画面を起動させた。タブレット型の端末にはパンフレットの情報を抽出し、圧縮した簡易的なパワーポイントが用意されていた。彼はスライドを見せながら、会社が目指すビジョンや人材、雰囲気などを紙芝居の要領で語り始めた。視覚的情報で情動を揺さぶり、聴覚的情報でイメージを掻き立てる。そうしたやり口で、これまで何人もの就活生を水野は落としてきた。 自らが発する声のトーンが聞き手の不安を取り除き、安心感を与えることを、彼は熟知していた。そうして、立花ユリもまた他の就活と同様に、具体的な仕事内容よりも、会社のイメージや雰囲気などといった抽象的な概念に囚われ、その居心地の良さに浸かっていた。
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