至福のひと時

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至福のひと時

立花は自分自身へのご褒美として、ブラックコーヒーと一緒に、スフレタイプのパンケーキを頼んだ。それは今の彼女にとって、この上ない贅沢だった。就職活動によって削られたアルバイト、それに伴う収入の減少。今、彼女の財布は酷く痩せ細り、栄養不足気味なのだ。しかし、今回の案件については祝わずにはいられなかった。そうでなければ、誰も彼女のことを祝ってくれない。それならば、自らの手で自分自身に拍手を送り、鼓舞するしか他にあるまい。茶色の木目が付いたお盆の上に、熱い吐息を吐くブラックコーヒーと、真っ白いアイスの溶岩が四方に流れ込んでいるパンケーキを見ながら、彼女は幸福な気持ちになった。 お盆を両手に持ちながら、近くに空いている席があるかを探した。店内はかなりの盛況で、カウンターから真っ直ぐ進み、突き当たりの左側に位置する喫煙ルームを除いては、殆どの席が埋まっていた。彼女は通路の突き当たりまで進んだ。そうすると、右手側にも奥行きがあることに気づいた。そこには二組のテーブルと椅子が置かれ、奥の席は埋まっていたものの、手前の席は空いていた。彼女は今日の自分の運の良さに喜び、その喜びをタップダンスで表現したい気持ちに駆られた。もちろん、彼女はこれまでに一度もタップダンスなど踊ったこともなければ、熱烈なタップダンスマニアでもなかった。昨日たまたま見ていた番組に、世界的なタップダンサーが出ていて、そのダンスに感銘を受けたことがきっかけでそう思っただけなのだ。
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