至福のひと時

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至福のひと時

「ああ、あの子ね。業務の穴を埋めるには丁度いいんじゃないかな?雰囲気は暗いけど、コミュニケーションができないわけじゃない。顔も悪くなかったし、スタイルも良い。うん、きっと吉沢部長の好みのタイプじゃない?」 「ああ、分かります!たしかに吉沢部長の好きそうなタイプですね。お淑やかな子、大好きですもんね。この前の宴会の時も、業務の宮前さんを口説いてましたからね。あれには僕も引きましたけど」 「何が良いんだろうね?あの大人しくて、従順な感じがいいのかな?」 「そうじゃないですか?実際、気が弱くて逆らえない人多いじゃないですか?僕にはあんまりよく分からないんですけど」 「まあ、いいんだよ。人の好みなんて分からなくても、俺らは部署が必要とする人材も採用すれば良い仕事なんだから。今回必要とする人材は、エクセルとかワードがある程度使えて、馬鹿じゃなければいい。誰にでもできる仕事だけど、それに加えて、吉沢部長に気に入られる子じゃないといけない。その点、立花さんはドンピシャだったわけだ」 「まあそうですよね。業務系は基本データの打ち込みと電話応対、資料作成ぐらいですもんね」 「そういうことです。さあ、もう戻るか。あんまり遅いと和田さんに怒られる」 「はい、会計は?」 「あ、いいよ。ここは俺が出しておくから」 「水野さん、あざっす!いつもすみませんね」 足音がどんどん遠ざかっていく。その足音と共にさっきまで立花ユリの中にあった幸せもどこか遠くへ行ってしまった。
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