再び、車窓から

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再び、車窓から

闇が世界を侵食し始めていた。先ほどまで立花ユリを照り付けていた西陽は、すっかり姿を消していた。車内もかなり人が増えている。ドアの上にある液晶パネルには、立花ユリの最寄駅が表示されていた。どうやらもうすぐ着いてしまうらしい。 彼女はもうどこにもたどり着きたくなどなかった。どこかへたどり着くたびに、ここまで来た道のりのことが気になり、そして、もっと効率的に、もっと上手くやれたのではないかと思ってしまう。過去を今いる場所から眺めると、なぜあんなに愚かなことばかりをしていたのだろうと思ってしまう。過去の自分に怒りが込み上げる。そうして、今の自分を蔑ろにし、罰を与えたくなるんだ。それはエゴによる罰なんだ。その罰は神でも、社会でも、他人によって与えられたものなんかじゃない。ただ自らの手で自らを罰するのだ。過去の私が犯した罪を贖うために、今、ここにいる私が罰を受ける。人生なんてその繰り返しじゃないか。自分を赦すことなどできやしない。立花はそんなことをグルグルと頭の中で考え続けた。 車内アナウンスが聞こえてくる。 「仕方がない」心の中でそう呟きながら、立花ユリは荷物を持ち上げ、人をかき分けながら、ドアの前まで近づいた。そうして、ドアが開くと他の乗客たちと同じように忙しなく外へと出た。苦役を終えた奴隷たちは自らの住処に向かって歩いていた。周囲のことなど気にすることができないほどに彼らは疲れ果て、ボロボロになっていた。そんなサラリーマンたちの姿を見ながら、立花ユリは真冬の曇り空ように重苦しい気持ちで改札を抜けた。 「いいわね、立花先生はみんなから好かれて」 あいつの言葉が脳裏にこだまする。
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