不思議なBAR

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不思議なBAR

「羨ましいわ。大した授業もしてないのに生徒からチヤホヤされて、やっぱり若さって大事よね?」 卑屈な笑い声が聞こえてくる。 「この仕事を長くやってると分かることがあるのよ。あなたみたいに眼を輝かせている子ほど、精神的に病んだりするのよ。フフ、あなたって〈夢見る乙女〉って感じよね?垢抜けしてないというか、純真無垢っていうか。ああ、ごめんなさい。悪く捉えないでね。〈いい意味で〉そう言ってるのよ」 奥歯を強く噛み締める。そうやっていつも我慢してきた。何か理不尽なことが起きるたびに、怒りを噛み殺してきたのだ。怒ることはいけないことだ。誰かを傷つけることはいけないことだ。私はそうやって教わってきた。忍耐こそ人間が持ち得る美徳だ、と何度も何度も言われ続けてきた。しかし、本当にそうなのだろうか。吐き出さずにはいられない怒りがこの世にはあるのではないか?そうでなければ、私は狂ってしまいそうだ。 いつものように通い慣れた階段を降りて通りに出ると、見慣れないお店を見つけた。そのお店はグリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』に出てくる〈お菓子の家〉にそっくりな建物だった。あまりにも精巧に作られているため、立花は初めそのお店を見た時、本当に食べられるのではないかと思ったほどだ。中世ヨーロッパ風の可愛らしい洋風なお店の前にある看板には「占いBar MoMo」と書かれていた。立花は何度か店の前を行き来し、店内がどんな雰囲気なのかを見ようとした。しかし、白い砂糖菓子のように作られた窓には黒いカーテンがかけられていて、外から中の様子を伺うことは出来なかった。
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