車窓から

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車窓から

車窓から日差しの強い西陽が女を照らしている。立花ユリはその西陽を睨みつけながら、大きな溜息を一つ吐いた。 車内はひどく閑散としている。若者は彼女くらいしかおらず、その他の乗客の多くが高齢者、そして、黒色、あるいは、紺色のスーツを着たサラリーマンたちだった。彼女の左手側に見える高齢者たちは、大きなリュックサックを抱え、身なりは蛍光色の派手なジャージに身を包んでいた。おそらく、ウォーキングツアーの帰りか何かだろう。見るからに幸せそうで、お互いに持ち寄ったお菓子を交換し合いながら、愉快に談笑していた。その一方で、無彩色のスーツに身を包んだサラリーマンたちの表情は暗い。疲弊してヨボヨボになったたスーツ同様に、彼らの顔も疲弊し、深い憂いを帯びていた。彼らはただじっと携帯電話を見つめていた。ソーシャルゲームを貪るように興じる者もいれば、SNSやネットサーフィンを虚な瞳で眺めている者もいた。彼らは眼前に広がる現実の世界よりも、掌に広がる虚構の世界に最後の希望を託しているかのようだった。 彼女はそうした車内の雰囲気を見渡しながら、また一つ大きな溜息を吐いた。彼女もまた無彩色のサラリーマンたちと同様に、黒いスーツを着ていた。しかし、彼女とサラリーマンたちとのスーツには大きな違いがあった。彼女のスーツはまだ真新しく、キチンとアイロンがけが施されており、襟元などは定規で測れるくらいに真っ直ぐに整えられていた。
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