不思議なBAR

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不思議なBAR

「人の気も知らないで、魔法の水晶だの、十年後の私だの、嘘ばっかり言って。もうたくさんです。あなたたちのような自分勝手な大人が、私は大嫌いです!都合の良いことばかり言って、支配しようとする。そういう汚いやり方でしか生きられないんですか?それが大人になるってことですか?もうウンザリです。私はあなたたちの駒なんかじゃない!私はあなたたちの思うような人間じゃない!!」立花はそう言うと、椅子の横に置いていた荷物とコートを無造作に手に掴み、ドアの方へと歩き始めた。 「お待ち、アンタ大事なもんを忘れてるよ」 金髪の老婆が発したその声は、と哀しみで支配された立花の心にも自然と響いた。その声には人の心を揺さぶる真摯さがあった。立花は振り返り、老婆を睨みつけながら言った。 「何ですか、大事なものって?」 「直接聞きな」 そう言うと、老婆は水晶玉を手に掴み、立花の方へ放り投げた。水晶玉は緩やかな放物線を描きながら、立花の方へ向かってくる。立花は慌てて、手に持っていた荷物を床に落とし、膝のクッションを使いながら、水晶玉を両手でキャッチした。立花にとって、こんなにも緊張感のあるキャッチボールは生まれて初めてだった。彼女は大きなため息を一つ吐くと、水晶玉を見た。水晶玉は先程とは違い、白い燻みが消えていた。さらに見つめていると、驚くことに水晶玉の中に顔が浮かび上がってきたのだ。浮かび上がってきた顔は立花ユリだった。さらに驚くべきことに、現在の立花ユリではなく、少し老いた立花ユリだったのだ。 水晶玉の中にいる十年後の立花百合は、おもむろに口を開いた。 「なかなか情けない顔をしてるわね」
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