GRETEL

不思議なBAR

その声には、歳月が育んだ落ち着きと冷静さが含まれているものの、間違いなく自分自身の声だと立花ユリは感じた。

「何で私がそこにいるの？」
若い立花は素っ頓狂な声を上げて、水晶玉の中にいる十年後の立花ユリに話しかけた。
「魔法の力…ということにしておきましょう。今は分からないかもしれないけれど、時が経つにつれて分かることもあるのよね。ちなみに、今回の出来事もそう。十年前の私なら分かってくれるでしょ？」十年後の立花ユリは微笑んだ。

「ところで、今から十年前の私の人生相談に乗るわけだけど、最初に言っておかなくちゃいけないことがあるの」
「え、なに？言っておかなくちゃいけないことって」若い立花の脈の鼓動が加速する。自然と拳に力が入った。
「ずいぶん怖い顔をするのね。安心して、大した話じゃないから。あのね、十年前の私、アンタはこれからも沢山ミスするわよ」
若い立花は十年後の立花があまりにも当たり前なことを言うので、拍子抜けしてしまった。若い立花は様々な悪いシチュエーションを想像していたのだ。しかし、十年後の立花が言ったことと言えば、今の私でも想像できることだったのだ。
「何でそんな当たり前なことを溜めて言うのよ！そんなこと誰でも分かることじゃない。もっと具体的に教えてちょうだい」