不思議なBAR

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不思議なBAR

「フフ、そんなに怒らないでよ。ちょっとからかっただけじゃない。でもね…さっき言ったことは事実よ。しかもそれは、今のアンタが思っている以上に大事なことなのよ。今のアンタは、未来のことを考える時、完璧な自分を想像しがちなのよ。あらゆる選択で間違いを犯さず、その時その時に応じて正しい答えを選ぶ。毎日が最高に幸せで、クヨクヨなんてしない。そんなことを考えてしまうのね。でもね、それは違うの。アンタは間違った選択を何度も何度も選ぶし、毎日クヨクヨしてばかり。最高に幸せな日なんて、片手で数えられるくらいしかないわ。アンタはいつまで経っても緊張しいだし、おっちょこちょいだし、要領が悪いの。それは今の私が保証するわ。昔から治らないのよね。あ、そうそう。今以上に最低な想いもするわよ。ホントに、あれだけは今でも許せない…。その時は、心底生きるのが嫌になるわ。何度も自暴自棄になって、自分も傷つけるし、自分の周りにいた大切な人も傷つける。本当に最低な時がやってくる…。でもね、私は生きてる。最高に幸せとは言えないけれど、最低に不幸せとも言えない。毎日毎日右往左往しながら、何とか生きてる。私が十年前のアンタに言いたいことはね、〈勝手に生きな〉ってこと。どんなに完璧を求めたって、完璧な生き方なんて出来やしないけど、それでも、自分が想い描く理想に向かって生きればいいじゃない?例え、夢破れたとしても、また夢を見つければいいじゃない。私たち一途が取り柄でしょ?フフ、まあ、浮気性でもあるけどさ。そんなことはいいのよ。とにかく突っ走りなさいよ!走れなくなってから、反省をすればいいんだから」 十年後の立花はニッコリと笑った。歳を取った私は笑顔が似合う大人になっていた。
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