面接

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面接

地下鉄の改札を抜け、地上のビジネス街を五分ほど歩いた先に、今回、応募をしていた企業のビルが見えてきた。ビルの中には複数の企業がひしめき合っている。それはまるで働きアリの巣のようだった。彼女はビルの前に着くと、企業のオフィスが何階にあるのかを確認し、腕時計を見た。時計の針はノロマな亀のようにゆっくりと時計盤を歩いている。十四時四十分。まだオフィスに向かうのは速すぎる。立花はオフィスの前でしばらく時間を潰すことにした。 大通りでは忙しなく人が動き回っていた。彼らはまるで自分の忙しさを自慢するかのように、動くスピードを上げ、乱雑に他者をかき分けて、前へ前へ進んでいた。しかし、そうした努力も虚しく、信号機は彼らの動きを中断させ、冷静さを取り戻すように促すのだが、むしろその行為自体が、彼らの衝動を煽り、逆だてていた。彼らはこうした日々の鬱屈した想いをどこで吐き出しているのだろうか?蓄積される虚無と苛立ちを何によって昇華させているのだろう?彼女はそのことが知りたかった。 教育実習での出来事以来、こうした考えがフライパンにこびり付いた油汚れのように彼女の頭から離れなかった。もしこの油汚れを落とす洗剤があるのなら、使いたいものだ。そうして、綺麗スッキリに洗い流した後には、晴れ晴れとした気持ちで目の前の現実に向かい合いたい。そうすれば、現実のことが好きになれる。しかし、彼女の鋭敏な精神がそれを拒絶していた。彼女は現実を嫌っていたし、自らを傷つけた他者をなぶり殺しにしたいと思っていた。 頭の中を自由奔放に動き回る思考を一度停止させ、彼女はもう一度時計を見た。相変わらず、時計の針はノロマな動きだが、しかし、確実に歩みを進めていた。十四時五十分。彼女は大きな深呼吸をすると、ビルの中に吸い込まれていった。
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