面接

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面接

立花ユリはそうした考え巡らしながら、会社のパンフレットを開いた。見開きのページには、若く清潔感があり、初対面の相手からはまず好印象を持たれるだろう男女が、これもまた上手な作り笑顔を浮かべていた。そして、彼らのバックには綺麗なオフィスとそこで働く人々の姿が映し出されていた。疾走感のあるロゴには「希望を創ろう!」と書かれていた。さらに中を開いて見ていくと、そこには読者を楽しませる工夫が巧妙に仕掛けられていた。一目で分かり、読み手の情動に訴えかけるコピーに、幸福なイメージを自動的に連想させるデザイン、そして、圧倒的な企業実績。この一冊を読めば、この企業の情報は全て網羅することができると読者が勘違いしてしまうほどに、よく作り込まれたパンフレットだった。 きっと多くの資金がこのパンフレットの制作に注ぎ込まれたのだろう。どれほどの人々が苦労し、疲弊しながら、この希望に満ちたパンフレットを作り上げたのだろう。しかし、そうしたことを立花ユリは考えていなかった。彼女は社会のシステムを理解していなかった。作り込まれたパンフレットほど現実から乖離したものは他になく、無知な学生たちを騙すのには、これほど有効的な手法はないということを彼女は知らなかった。 だが、彼女の無知さを馬鹿にすることはできない。私たちもまた彼女と同様に、作り込まれた幻想に、多くの時間と労力を割いて、人生を浪費しているのだ。他人がそうした浪費をしていれば、私たちはその人を嘲り笑うのだが、自らがその犠牲者になっているとは気づいていない。自らもまた沈み行く沼に浸かっていることに気づいていないのだ。
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