29 まるで子犬

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昼御飯の時間だと戻ってきた白と共に、ナースステーションの横にある診療室へと移動して 御互いにソファーに座り、可愛い動物の風呂敷に包まれた二段弁当を出す これは白の家に来る時に、お店で買った御揃いのお弁当箱だ 『 いただきます 』 「 温めなくていいか?レンジあるぞ 」 『 あ、白と一緒で! 』 「 嗚呼、分かった 」 手を合わせたら、同じく弁当を広げた彼の言葉に頷き、一緒にレンジで軽く温めて貰うことにした 直ぐにチンっと鳴ったそれを持ってきてくれた事によって、もう一度両手を合わせる 「『 いただきます 』」 やっと食えると目につく、ブリの照り焼きを見れば口へと含む おかずとおにぎりが其々の弁当に入ってる為に、おにぎり側を片手にな 『 照り焼き、美味っ!んー 』 「 ふっ、そうか 」 笑みを浮かべた白に頷いていれば、彼は箸で摘まみ口に含みながらふっと告げた 「 いいな……。たまには一緒に弁当の昼飯を食うのも。いつも一人だからなぁ 」 『 太陽くん達と食えばいいのに 』 「 それが中々、休憩時間と合わないものだ 」 『 なるほど、医者って休憩あるように思えて、無いもんな 』 こうして一緒に食べてることすら珍しい 入院してる時は、たまーにコンビニ弁当やら持って病室に来てくれていたけど あれも結構無理してたもんな、手術が終わったタイミングで、患者に異常がなければそのまま休憩するらしいけど 患者が不安定だったり、報告とかあればもっと休みがなくなる 俺が知らないぐらい、ずっと忙しいことに改めてもう少し自立しないとなって思う 朝みたいに泣いてたら、白は心配で仕方ないだろう 「 そういう顔をするな。問題ない範囲で相手してるだけだ 」 『 っ、そうかよ…… 』 相手してる、って言い方がペットみたいだな、と内心思いながらポテトサラダとか色々食ってから、弁当箱の中は空になり食事を終えた 「 さて…… 」 何かしようと立ち上がった白の元に、タイミングを見計らったように此処に置かれた固定電話が鳴った 「 はい、此方。十六夜です……はい。はい、直ぐに向かいます 」 嗚呼、嫌な予感がすると思えば一気に忙しい雰囲気を見せた白は電話を下ろしては俺の頭に触れた 「 救急の患者が来る。救急医で対応出来ると思うが、応援を呼ばれたから行ってくる。 いつ帰れるか分からないから、佐々木に送って貰え。ごめんな 」 『 んや、大丈夫。頑張ってな 』 くしゃりと撫でられたまま、白は白衣を羽織りそのまま飛び出すように診療室を出れば、早歩きで立ち去った ポツンと一人になり、白が片付けが出来なかった風呂敷に包まれた弁当に視線を向け、自分が持ってきた袋の中へと一緒に入れる 太陽くんは、休憩しに外に出たと思うから後で聞いてみよう…… 『 まぁ、仕方無いよな…… 』 さっきまで白は居なくて平気だったのに、こうして離れていくとなんか寂しいと思ってしまう 仕方無い……と呟き、膝を丸めてはボーとしていた 「 黒くん。看護師さんから聞いたんだけど…… 」 休みを終えて帰って来た太陽くんは、ナースウェアを着た姿で俺の元に来れば、軽くしゃがんで目線を合わせるように見上げてきた 「 今日は17時までだけど、待てる? 」 『 嗚呼、待てる……なんか、ごめんな 』 「 んん。気にしないでー、先生の家の方向は通るからさ。俺の方が遠いから大丈夫 」 そう言ってくれるのは助かると、目線を落とせば彼は立ち上がって肩に触れてはその場を離れた 17時までに白が終われば、一緒に帰れるな 少しふて寝するように、いそいそと此処にあるベッドに倒れて目を閉じて眠りに付いた 案外、昼御飯を食べた後って気持ちよく寝れるよな 思った以上にぐっすり寝ていれば、肩を揺すられる感覚にうっすらと瞼を持ち上げる 「 黒、待たせたな。帰るか 」 『 ん……。仕事終わり……? 』 ぼんやりと見えた紺色のスクラブと揺れる白衣に、白だと分かり欠伸をして身体を持ち上げれば、彼は頭を撫でた 「 嗚呼、終わった。佐々木がぐっすり寝てるからと起こさず置いていったみたいだからな。俺と帰ろう 」 『 んー、そんなに寝たんだ……おう、帰る! 』 太陽くんが終わるのが17時だけど、今は18時頃 結構爆睡してた事に驚きながらも、ベッドから下りれば彼は白衣を脱ぎスクラブの上から上着を羽織り、荷物を纏める 「 嗚呼、晩御飯は外食にしようか。何が食べたい? 」 『 んー、ハンバーグ! 』 「 いいな、そうしようか 」 ふっと笑った彼に頷き、一緒にナースステーション側から外に出て、夜勤の方々に挨拶をして車へと行く 『 患者さんどうだった? 』 「 んー、あぁ、大丈夫だったぞ 」 『 そうか、良かった 』 冬になった為に、直ぐに真っ暗になる外を歩き車の方に行き乗ってから、一緒にファミレスへと行く 「 その後は、普段通りの仕事をしたから忙しくは無かったな 」 『 へぇ、じゃ……いつもと終わる時間? 』 「 嗚呼、残業も無いしな 」 そかそか、と喜ぶけどじゃないと外食して帰ろうとは言わないか 納得しては、ファミレスに行って白はハンバーグ定食を食べて、俺は包み焼きハンバーグを食べては家に帰った 「 黒、一緒に風呂にはいるか? 」 『 いいのか? 』 「 嗚呼、いいぞ 」 『 入る! 』 疲れてるだろうと思って、普段は先にちゃちゃっと入って、仕事終えた白は後からゆっくり入っていた だから今日もかなと思っていたが湯が溜まったタイミングで一緒に入ることになった 素直に喜び、早々に服を脱いで洗濯機に入れ、白もまた脱ぎそれ等を洗濯に回せば共に風呂場に行く 長風呂が得意な彼が、先に身体をシャワーで洗い流しバスタブに入り、俺はシャワーを浴びてから身体を洗う 「 はぁー……今日も無事に一日が終わったな……。早いもんだ…… 」 『 確かに寝てたら夜だった 』 「 ふっ、夜もちゃんと寝ろよ? 」 『 寝れるし! 』 洗いやすくなった頭をモシャモシャ洗って、泡を洗い流しては、コンディショナーを付けたまま身体を洗う 沢山の泡で身を洗えば、白は目を閉じたままボーとしてた やっぱり疲れてるんだな…… 全て洗い終わってから、白と場所を交代し次に俺がバスタブに座り、脚だけ浸かっていれば彼は頭から洗う 『 身体洗ってやろうか、タオル貸せ 』 「 ん?あー、ありがとうな 」 頭を洗ってるなら丁度いいと、身体用のタオルを持ち泡を立てては、背中側へと移動し洗う 『 お客様、痒いところはありませんか? 』 「 無いさ、ふっ……いいな。気持ちがいい 」 『 力加減は大丈夫? 』 「 ん、丁度いい 」 『 そかそか 』 やっぱり俺より背中広いなって思いながら、全体を洗って、前側やら尻は任せては手を洗いバスタブに戻る 「 ありがとうな 」 『 んん、いいって 』 どこか照れと、嬉しさが混じった彼は軽く笑っては他の部分を洗い、シャワーで流しバスタブに入る 白が入ったタイミングで向き合うように座り、御互いに脚を伸ばせば、白はまたボーとしていた 『 眠いか? 』 「 少しな……。手術した後はこんなもんだ 」 『 集中力使いそうだもんな……。よく十二時間以上の手術出来るよ 』 「 その時は手術してるから平気なんだが、終わった後に集中力切れると、どっと疲れるな…… 」 やっぱりどんなに手術の回数が多いとしても、慣れないものなんだな 手術しながら、どうでもいい医者同士の会話をするとか言う人もいるっぽいけど 白の場合は、拘りがあるから黙ったままスピードとテクニック重視で終えるらしい だから俺の手術も、予定より早く終えてくれたんだ 『 白は手術上手いもんな…… 』 「 ふっ、認めるか?もっと褒めてくれてもいいぞ 」 『 うっ……そう言われるとなぁー 』 「 ははっ、連れないな 」 最初出会った時より、随分と柔らかいし声を上げて笑うと思う ちょっと目付きが悪くて、腹立つ医者だったけど…知れば知るほど傍にいて安心する 何気無く背中を向けて膝の上へと座れば、白はそっと腕を腹へと回し、髪へと口付けを落とす 「 少しは落ち着いたか。寂しくはないか? 」 『 寂しくない……明日はきっと待てる 』 「 ふっ、それならいいがな。まぁ、待てなくとも……病院で待てるなら連れていくさ 」 『 それもいいかも知れんな 』 クツクツと喉で笑う彼を見て、髪に触れそっと頬に口付けを落としてからバスタブから上がる 『 休もうぜー。TV観るのもいいな 』 「 嗚呼、そうだな 」 明日はきっと泣かずに待てると思う 自立、頑張ろう…… 風呂も終え、ゆっくりとしてる二十時頃に この時間帯にあるバラエティー番組を見ていれば、テーブルにポンと有るものを置いた白は、そのままなに食わない顔で膝の上へと頭を乗せた 『 して欲しいなら、するよ? 』 「 嗚呼…… 」 『 ふっ、いいぜ 』 置かれたのは綿棒と耳かき、つまり耳掃除をして欲しいって言う不器用なりの甘えに笑みが溢れる テーブルに手を伸ばし、道具を持ち片手を出してる白の手にテッシュを乗せる この耳かき、何がすごいかってライト付きの耳かきなんだよ 目の悪い俺でも、光らせれば見えるからやり易いと思う それに先端がシリコンになってるから下手に傷付けなくていいしな、流石医者が選ぶのは違うなって実感しながら行う 正直、すげー汚れてたら気持ちいいだろうに、 この人の耳の中……マジで綺麗 どこ掃除すればいいんだよって思うぐらい綺麗だから僅かな粉程度をちょっちょっと取りつつ、何度か頭を撫でていれば、白は目を閉じたまま眠り始める 『( これがされたいんだよな…… )』 始めてやったのは、入院してるときに…… なにか得意なことはないか?と聞かれたときに 耳かきは得意だぜ!と自慢気に言ったのが始まりだった そこから二回ぐらいはしたけど、やっぱり一緒に暮らしても健在なんだな 『( に、しても……ゴミないのに、どうやって続ければいいのか…… )』 やってるフリをして耳を無理掻くのは嫌だし、取り敢えず耳掻きでは取れない程度を、綿棒でそっと取ろうと決めてやれば 終えた後に、白は反対も、とばかりに腹の方へと顔を向けた 『( やっぱり、ねぇよ…… )』 頼む、もう少しゴミ溜めて…取る心地を体験させてくれ! じいちゃんのやったときに、ボボボッ!って長くてデカい耳クソを取ったときのあの爽快感、 じいちゃんが“ よく聞こえるようになった “と驚いたのがクセになってんだよ! 俺はクソが溜まった、お爺ちゃんやら婆ちゃんの耳かきをしたい!! こんな、ツルツルピカピカで綿棒使っても取れないような綺麗な耳に興味はない!! 『( つまらなかった……まぁいいか )』 両方とも終えれば、白はゴミを捨てソファーに座った 「 ほら、やってやる。横になれ 」 『 俺、多分……めっちゃあるよ……。寧ろピアスホールも綺麗にして欲しい…… 』 「 嗚呼、ならあれを持ってくるか 」 いつも綿棒やらそれとなくやってるけど、自分じゃ取りきれてないの自覚してる それに、入院中は綿棒だけだったしな…… その事に不安で眉を寄せれば、彼は消毒液と小さな容器を持ってきた 「 そのままの消毒液を入れた。ピアスはつけるといい。耳とかはやってやる 」 『 お、なら頼むな 』 やった、風呂で洗うだけじゃ物足りないことに喜んで耳のピアスを外し、消毒液の中に入れてから太股に座れば、白は耳掻きを持った 『 んー…… 』 耳かきが始まれば、確かに気持ち良かった フワフワって気分になり、目を閉じていれば彼はピアスホールも綺麗にしていく 消毒液を含ませたティッシュで拭いたり、案外やり方を知ってることに内心驚くも すげー……気持ち良かった 『 んー、スッキリした。ありがとうな!ちょっと聴覚良くなったかも 』 「 ふっ、言うほど無かったぞ。綿棒のやりすぎってぐらいにな 」 『 そんなにか、耳毛が無いと耳鼻科に言われたことあるけど…… 』 「 嗚呼、無かったな 」 耳の中に産毛があるらしいけど、綿棒で良く耳かきをしてるから摩擦で取られて無いらしい その為に、ゴミも絡まり辛くて取りやすいんだろうな 「 そう言えば御前、他のピアスはどうするんだ。咥内と鎖骨と……陰茎のは 」 『 それは白が見てないときに、こっそりやります。プリンセスアルバート(亀頭)とフレナム(裏筋)だろ? 』 「 嗚呼…… 」 なにその、すげー痛そうな顔をしてる渋い表情の白に笑えば、腰へと手を当てる 『 見たい?此処に来て付け直したから有るぞ 』 「 いや、遠慮する……。外してるときも下半身痛くなったからな……良く付けたな 」 『 これは、まぁ……とある人に無理矢理付けられたものだからな……自分であけてはねぇよ 』 下半身のピアスは、流石に自分好みでやってはない 首にあるヴァンパイア、とかは自分だけど…… 「 深く聞かない方がいいやつか 』 『 まぁ、その内話すかも…… 』 余り語りたくはないと視線を外せば、彼は頭に触れ小さく笑った 気が向いたら話せ、とばかりの雰囲気は嬉しい
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