03 最悪な出会い

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03 最悪な出会い

ぼんやりと明るい視界の中で、騒がしい声がする それも一人じゃなくて何人もいて、その中で一番不快に思いそうなほどに嫌な男性の声は覚えていた 「 刺青……おい、ライト持ってこい! 」 「 先生、ピアスの数も多いです! 」 「 A-の輸血を始めろ 」 騒がしいし、痛いし、苦しいし、わけわからないままぼんやりとする視界の中で様々な会話が行き交う そして、真っ白な視界を見ていれば急に人は覗き込んできた 「 おい、言葉は聞こえるか?返事は出来るか? 」 『 っ……しな、せて…… 』 「 意識はあるな。死なせるか、絶対に生かしてやる 」 「 先生!反応なし!MRI検査共に、問題なさそうです! 」 「 こちら準備できました! 」 「 君、ちょっと眠くなるよ~。いいね? 」 麻酔医によって俺は全身麻酔を行われた ほんの二十秒もしない内に声は聞こえなくなり、 酷い眠気と共に意識は失い、手術は行われた 麻酔医が体調を見ながら、消化器が得意な医師によって三時間の手術が無事に終わったそうだ A(RH-型)、A型の中で二千人に一人しかいないとされる血液型を教えたのは、紛れもない白鳥さんだ そして、腹部の手術をしたのは……俺の大嫌いな医者だった それから三日後…… ずっと意識を取り戻す事も無く、眠っていた俺は体の気だるさと共に目を覚ました 『 っ…… 』 黄身色のカーテンに、真っ白な天井、独特な匂いに家ではない事は察することが出来る 此所はどこだ……?そう考えるより先に、腹の事を思い出し起き上がる 『 そうだ、いっ!! 』 盲腸になった時に腸を切った時よりも激痛が腹部に走り、ぎゅっと握り締め傷みに奥歯を噛み締めた 一瞬で体中の汗が吹き出るような感覚と同時にサーと頭の血が引けば、眩暈をし掛布団へと手をつく 『 はっ、くそ、いてぇ…… 』 なんでこんなに痛いんだ、つったような感覚もあるし、それに俺は生きてる……? 傷みが多少落ち着き、視線を動かせば揺れる点滴のホースに眉は寄る 文字を見ようとしても見えるわけもなく、辺りを見渡していれば扉は開き、肩はピクリと反応する 「 そろそろ時間…… 」 シャッ!!とカーテンの開く音がし、目を細めてぼんやりとする中で目があったような女性は、硬直してから逃げていった 『 なんだったんだ……? 』 もっと反応があると思うのに、逃げた後に走るような音を聞いてから繋がるホースに嫌気がして、腕に刺さったそれを掴む 『 針にそって……っ……! 』 何度も自分でアレルギー用のエピペンやら使ってたから、そこそこ針の傷みには強く、点滴を抜いては痕をグッと手で押さえ付け、ベッドから下りようと横を向けば、こっちに来る足音は増えた 「 入りますよ 」 さっきの女性がまた入ってきて、 それと同時に一人の白衣を着た医師と、茶髪っぽい若い青年の看護師がいる 一気に増えた人数と共に、自分が生きてることに腹が立ち彼等が何かをいう前に声を上げた 『 誰が、手術した……誰が生かせと言った。俺は死にたかった……なんで死なせてくれなかったんだよ!! 』 死にたかったのに、死にたくて腹を刺したのにまるで無意味のように俺は生きている その事に腹を立てて告げれば、彼等の言葉を片手で止めさせた短髪のビジネスショートをして 半分だけオールバックのような目付きの悪い医者の男は、答えた 「 俺が手術をして、生かした。死なせるわけないだろ 」 『 っ!! 』 その言葉を覚えていた 薄れていた記憶の中で耳に届いた言葉と声に、胸は苦しくなり自然と涙は溢れ、ベッドから下り 足が小鹿のように震えながら、彼の服を掴む 『 ふざけんな、ふざけんな!!腹を刺して自殺しようとしたのに……俺はまた、生きなきゃいけないなんて……! 』 「 俺は医師だ。患者を助けるのが俺の仕事だ 」 『 患者を助けるっていうなら、死なせてくれた方がよっぽど助けて……っ、ゴホッ……ゴホッ……! 』 息が荒くなった事で呼吸が出来なくなり、その場でずり下がるように座り込んだ 肺も苦しいが、腹も痛くて、涙を流していれば男は目線を合わせるようにしゃがみこむ 「 ゆっくり息を吐け…… 」 『 触んな!!はっ、っ……ゴホッ、ゴホッ…… 』 肩に触れようとした手を跳ね、身体に力を入れ起き上がろうとしては、カーテンを掴みその場から離れようと脚を動かす度に、身体はぐらつく 『 ゴホッ……いっ、っ…… 』 「 当たり前だろ……刃渡り十八㎝の包丁で切った後、五十針以上で縫っている……。表面は形成外科が用いるやり方だが……俺は、少しでも傷跡を残したくは無かった 」 どんだけ縫ってんの?なんて思ったが、後々聞いたが、何針だった、と言うのは医師によって其々であり 同じ傷でも、個人差が出るという 偶々、俺を担当したこの医師が形成外科の知識があっただけで、本当はもっと傷口を合わせる程度しか縫わないやつもいる 『 はっ、傷口を残したくない?……なにそれ、可哀想だからか? 』 「 否定しない 」 向けられる慈悲が余りにも、今の俺には必要無かった 流れる涙が床へと落ち、腹部の病衣を掴みながら声を殺して泣いていた 『 うっ、っ……なんで、死なせてくれなかったんだ……死にたかった……しにてぇ……死なせて、くれ……うっ、ぁ、くっ…… 』 こんな身体で彼奴を待てるわけもない 彼奴は今頃、呼吸を止められたかも知れないのに…… 一人になった俺は、どうしろって言うんだ 「 ……どんなに死にたくとも此処にいる限り、俺は君を退院させる 」 『 退院したところで、俺に帰る場所なんて無いんだよ!!無いんだよ……どこにも……ない…… 』 「 で、でも、君を心配してたあの人は!? 」 聞こえてきた青年の声に、軽く首を振った 『 はっ、彼奴は……ただの、先輩……はっ、っ!! 』 肺の限界が訪れた 泣いて声を上げた事で、元々半分しかない肺が取り込める酸素は、通常の人の半分だけ その為に、呼吸困難へとなった俺は息が出来なくなり 心臓が速まる感覚を感じ、床へと倒れた 「 ちょっ、先生!! 」 「 佐々木!直ぐにベッドに戻すんだ!! 」 「 は、はい! 」 触んなと手を振り払う事も出来ず、看護師の男に横抱きされベッドに戻されてから、その横にあった呼吸器をつけられた 管のようなホースを突っ込むタイプではなく、マスク程度のを着けるそれを、いやがって首を振っても押さえ付けられて、暴れる身体を看護師は押さえ ふっと、意識を手放した 元々手術によって血液が足りず、ギリギリの状態に関わらずこんなにも暴れては脳より先に、身体はバテるもの そんなの知ってるのにじっと出来なかったから、何度も意識を失うんだ もう一度目を覚ました時は、その日の夕方だった 『 ………… 』 マスクは相変わらずつき、この光景を後、何度見るんだろうかと天井をぼんやりと眺めてから耳に届く音に目を閉じた 心臓の音、呼吸の音……そして人の歩く音や声 「 配膳しますよー! 」 「 池田さん、201号室の料理ある? 」 「 あ、ありますよ! 」 また誰か来る……そう思って眉間にシワを寄せていれば 案の定、看護師はやって来た 「 入りますね、起きてるかな? 」 ぼーとしてたらやって来た女の人は二人だった どちらも見覚えがあるようで無いな、と思って耳を傾けていれば、一人は横に来た 「 呼吸が正常だから外すね。ご飯食べれそうかな?先生が、ご飯食べようって 」 『 いらね…… 』 「 そう言わず、ねっ? 」 ちょっと若くて可愛い看護師と、トレーを置くのは年配の看護師だった ベッドの何かやらスイッチ押して、自動で背中部分が動かし上半身を起こす感じになれば、自然とトレーへと視線が行く 原型の止めてないヘドロに眉は寄る 『 きも…… 』 「 流動食、お粥、肉じゃが、野菜のサラダ……だけど 」 俺にとって白いドロドロ、茶色い下痢みたいなドロドロ、そして緑色のドロドロにしか見えなかった こんなヘドロ料理は何度か入院してる時に食べたことあるが、此処までドロドロになってるのは初めて見た それも原型止めて無くて気持ち悪い…… 『 いらない…… 』 「 でも、食べてみよう?君、栄養失調だから…… 」 「 そうそう、一口食べたらあら不思議。お腹が空いてるから食べれ…… 」 『 いらねぇっていってんだろ!!! 』 「「 !! 」」 トレーへと片手を振り上げ、横へと飛ばした俺によってがしゃん!と食器が落ち、地面へと散乱したものを見てから驚いた様子の二人へと睨んだ 『 なんで、死にてぇやつが飯食って生きなきゃいけないんだよ!!食うかよ!! 』 全てに腹が立った 何もかも腹が立って、裸足のままベッドから下りて逃げるように廊下へと出た 左右を見れば音によって驚いた様子の看護師やら患者がいて、俺の思考はパニックになっていた 『 っ……こっち見んじゃねぇ!! 』 「 おい、何を騒いでるんだ 」 やって来た、あの医師を見掛け腹を立ていた苛立ちはこの人へと向けられる 『 俺は食べないからな、絶対食うかよ! 』 「 食べないからとトレーを引っくり返したのか 」 『 っ……鬱陶しいんだよ…… 』 「 それを作り、丁寧に作った管理栄養士や厨房の人がいるのを知って、君は粗末にしたのか 」 『 っ……うっせんだよ!!赤の他人のくせに!! 』 俺は家族が欲しかった…… 分かっていたさ、ラーメン屋とかでバイトしていたから、どんな料理でもそれを作る人がいることを…… 彼奴が笑って料理を作っていた事を思い出す度に、俺は涙が溢れて止まらなかった 『 っ、うっせんだよ……知ってるんだよ……。知ってるから、俺に……料理を、持ってくんな…… 』 「 おい、どこに行くんだ!部屋にもどれ! 」 『 トイレに決まってんだよ。クソヤロウ!! 』 「 個室だから部屋にあるだろ! 」 『 そういう問題じゃねぇんだよ、ばーか!! 』 手摺を掴み痛む肉体に眉を寄せ、身体を引きずって歩けば床に落ちる血痕は点々と繋がる 手首は縫ってはいなかったらしく、ずれた包帯によって傷口は開き血は垂れ落ちる 「 おい、……って……待て! 」 『 ついてくんな! 』 「 違う、通路にあるトイレは反対側だ 」 『 ………… 』 真っ直ぐ前を向いてから、ぼんやりとした通路と振り返り医者やら看護師がいる方向は嫌だった為に、そのまま真っ直ぐ手摺にそって歩いていく 何気無くついてくる医者に何度も暴言を吐いて、蹴散らすも病棟の中をぐるっと半周してトイレに戻ってきた 「 出来るか?どれだけ出たか見たいんだが 」 『 見んなよ!変態かよ!!どんなプレイだ! 』 「 なわけあるか、医者なんだ。黙ってトイレをするんだ! 」 『 うるせ!入ってくんな!! 』 蹴散らしてから洋式トイレに一人で入ってから、椅子に座った 別にトイレする気は無かったけど、家にいるときも日常生活を怠ってたし、無駄に点滴をされた為に結構出た 「 ちゃんと水分は出るな……腸を切ってたから…… 」 『 ぎゃっ!?なんでトイレの前にいるんだよ!!!? 』 俺はこの医者が大嫌いになった
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