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花言葉をつくる
「花言葉を考えてほしい」
決して堅物ではないけど、こういう種類の冗談を言わない上司から出た言葉が、切り出し方も内容もあまりに唐突だったので、何かの聞き間違いかと思い、つい聞き返してしまった。
世間でもまあまあ名の通った食品会社である当社のバイオ部門が、主軸とは別に進めていた花の品種改良に成功した。色素を持たないため自然界では黄色の花をつけることのなかった品種が、遺伝子操作によってふんわりとした上品な黄色の花を咲かせるようになる。情報も解禁され各種メディアでも取り上げられたし、商品化はまだ少し先になるが近々開催の展覧会があって、そこでお披露目になる予定だ。
開発室に大切に飾られていた試作品は、主張の強くない淡いイエローの花弁をしていて、僕はそれを見て素直に綺麗だと思った。
その販促の一環として、花言葉をつくる事が決まった。もちろん広報から外部のプロにも依頼はいくが、社内でも幾つか案を出す事になり営業部にも声がかかった、という訳だった。
事の経緯は理解できた。ただ、僕にはそれをこういう形でアプローチする事にはちょっと抵抗がある。
花言葉ってもっとポエジーなものじゃないのか。新商品のキャッチコピーみたいに考案して広めてよいのか、という疑問がどうしても拭えない。
あまりにも即物的にすぎやしないか。花を売るために。
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