後日の話

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後日の話

ごおごおと吹く風がやけに冷たく感じる。空はどんよりとした曇り空。『連続殺人鬼デーモン死亡』から早数ヶ月。僕はようやく桜井さんの墓参りへ来れた。あのとき、警察に囲まれて殺されるのかと思いきや、自分達の後ろに居たらしい刑事さんがデーモンが一般人と戦っていると連絡したらしく、パーティー会場の人々の目に触れる前に警察が現場を押さえたらしい。らしいと言うのはあの後すぐ緊張とかで気絶してしまったから。翌日に病院で警察の人に取引を持ちかけられた。「あの場所で武装してデーモンと戦っていたのなら無関係では無いのだろう。しかしこの事件は警察が終わらせたことにしてくれれば、君は自由」とのことだ。尾道さんの努力を否定するような気分だけど、生きて尾道さんと再開したい。その気持ちのの方が強かった。でも尾道さんとはまだ再開できていない。現在、尾道さんは生死の境をさ迷っている。デーモンに刺された傷はとても深く、今も尾道さんは病室で眠っている。お祖母さんの予言と戦っているのかもしれない。僕はというと、桜井さんの仇を討っても何処か釈然としない日々を送っていた。前と同じく何も手につかない。桜井さんのご両親が彼女の部屋を引き取りに来たときも、どこか申し訳なくなった。その時に彼女のお墓の場所を教えてもらい、今に至る。でも行こうと決めるまでには時間がかかった。自分の全てを奪ったデーモンを殺したのに、スッキリとしない。罪悪感とかの類じゃない。今も分からない。でも来た。来てしまった。ごおごおと木枯らしが吹く。もうすっかり冬だ。そんなことをお墓への坂道を登りながら思ってみる。桜井さんのお墓がある墓地は高台の上にあった。周囲の景色がよく見える。これなら桜井さんも暇をしないだろう。墓地の中を桜井さんを求めてさ迷う。一番奥にそれはあった。膝をついて手を合わせる。ごおごおとした風が聞こえてくる。墓地は静かだ。何も音を発しない。しばらくそのまま手を合わせる。桜井さんの死を染み込ませるように。静けさの中を何かが通りすぎる。少しして気付いた。僕は泣いていたんだ。桜井さんがいないこれからの人生と桜井さんを思って。こうして桜井さんを思うのは実は、初めてかもしれない。自分の全ての桜井さんを理想に押し上げていただけで、僕は桜井さん自身を見たり思ったりしてなかった。ごめんなさい。同じ一人の人間の桜井さんへ謝れた、ようやく。ごおごおと風が吹く。僕が泣いたのは、泣けたのは、理想の桜井さんじゃなく隣人の好きだった桜井さんの死を悲しめたから、だと思う。思うと桜井さんを裏切った男を殺したのも理想の桜井さんを見ていただけ。デーモンへの平等な死を望んだのも理想の桜井さんがいたから。僕はただの苦しんでいた桜井さんに寄り添えなかった。ごおごおと風が吹く。冷たい風がが自分にはお似合いだ。いつまでそうしていたんだろう。納得のいくまで手を会わせた後、立ち上がると風は止んでいた。そして、 桜井さんのお墓の後ろには青く透き通るような青空が広がっていた。「さようなら」お墓へ頭を下げる。自分なりのけじめの付け方だ。桜井さんも僕みたいなのが今後も来るのは嫌だろう。お墓に背を向けて、帰ろうと一歩踏み出したとき。 「またね」 気のせいかもしれないが、でもしっかりと桜井さんの声が聞こえた。またごおごおと吹き出した風は、僕の泣き顔を乾かしてくれるだろうか。
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