2人が本棚に入れています
本棚に追加
カメラを構える彼女を、もう一度自分のカメラに収めた。
カメラを始めたのは彼女の影響だった。彼女はどこへ行くにもカメラを持っていくが、おれと言えば彼女と出かけるときくらいだ。だからだろうか、おれのカメラには彼女しか写っていない。
彼女は太陽がよく似合う。ねえ、と声をかけて彼女がこちらを振り向いた瞬間、カメラのシャッターを切った。満面の笑みで、太陽と海と、それからなぜかピーマンと写る彼女はとてもかわいかった。
「てかさ、なんでピーマンなわけ?」
「ツイッターでピーマンの花言葉が海の恵みっていうのを見てさ、実際撮ったらどんな感じかなーって思って。」
「なんだよそれ。」
「まあまあ、いいじゃない。くだらないことして過ごそうよ。外出てアホなことできるのも幸せよ?」
なんだそれと笑えば、いーのと彼女も笑った。
たしかに、彼女とこんなことをして笑いあえるのも、アホなことして笑いあえるのも、幸せなのかもしれない。大きなことはないけれど、小さなことでいい。些細なことで笑いあえたら、素敵なんじゃないだろうか、幸せなんじゃないだろうか。
ふと、たまに考えることがある。おれは彼女を離す気はないけれど、この日常が、幸せが、崩れる日がいつかくるかもしれないと。それはおれと彼女の"別れ"とかではなく、もっと大きな"なにか"だったりするかもしれない。そんなこと、わからないけど。でもわからないからこそ、ただの毎日を、何気ない日々を、そして今目の前にいる彼女を、大切にするべきなんだ。
「なあ、」
「んー?」
「おれに野菜贈るならなに贈ってくれる?花言葉とかも含めてさ。」
「ええー?んーそうだなあ。…ブロッコリーかな。」
「ブロッコリー?」
なんでまた?と不思議そうにするおれをみて彼女は笑いながら言う。
「ブロッコリーの花言葉は、"小さな幸せ"だよ。」
思わず、言葉を失った。
何も言わないおれの前に座り彼女が笑う。
「なんか小さなことでも笑いあえたら、素敵じゃない?幸せじゃない?一緒に小さな幸せ、見つけていきたいなって。」
「うん、そうだな。」
帰ろっか、そう言って立ち上がった彼女の手を握った。
そもそも彼女は些細なことでも喜ぶ人で、小さな幸せを見つけるのが上手な人だった。そんなところが、いいなと思ったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!