ピーマン

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「どうしたの?」 「好きだよ。」 「え?」 「言える時に言わないとと思って。」 「え、え、」 急な言葉に慌てる彼女の手を引き歩く。 しばらくして、わたしも好きだよと彼女がおれの手を握り直し横に並んだ。 幸せだなと思う。 どうかこの幸せがずっと続きますように。 「あ、八百屋さん!」 「え?」 帰り際、八百屋さんを見つけ駆け出す彼女。 どうやら彼女のなかの流行りは野菜らしい。そうか、だから最近の夕食は野菜がたっぷりだったのか。 「野菜はいいねえ。」 「パプリカってピーマンと似てるよな。」 「パプリカの花言葉は、"君を忘れない"だよ。」 へぇ〜、そんな意味が。そういえば、そんな題名の歌があったな、と頭の片隅で思った。 「贈る野菜、パプリカでもいいかも。」 「え?」 「ふふ、何があっても忘れないよって。」 「ふっ。それはうれしいな。」 ほんとに思ってる?と彼女は笑う。 おれだったら、彼女に何を贈るだろう。野菜を見渡し1つの赤いものが目にとまる。そうたしか、あの花言葉は。 「おれ、お前にトマト贈るよ。」 「トマト?」 「うん。花言葉は、"感謝"。」 おれの顔をみた彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、そのあといつものように優しく笑った。それはうれしい、と。 ありがとう。いつもそう思っているよ。 今ある日々を当たり前だなんて思わずに、一つ一つを大切にして、伝えるべき愛も感謝もちゃんと言葉にして、これからを一緒に歩いていこう。 例え何かがおれたちを襲ったとしても、この手だけは離すことなく、歩いていきたい。 隣に並ぶ彼女を見て、そんなことを思った6月のある日だった。 fin.
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