ピーマン

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「うーん、どうかな、これでいいかな。うーん、」 とカメラを構えた彼女が言う。 おれは一体なにを見せられているのだろう?彼女のやりたいことが一切見えてこない。 彼女の少し後ろに座りカメラを構える彼女をとりあえず撮ってみる。 「ねえ、どう?どう思う?この写真!」 おれの元に駆け寄ってきた彼女は数枚の写真を見せてきた。 どうって言われても。 「いや、そもそもなんでピーマン?!ここ海だかんな?」 そう、彼女は海を背景にピーマンを一生懸命撮っているのだ。 6月の梅雨の合間のある晴れの日、海に写真を撮りに行こう、と彼女は言った。 海は写真を撮り行くところではなく入りにいくところではないのか、とか思ったが何も言わずに素直に頷いた。海に行けるのが相当嬉しかったのか、やったーと溢れんばかりの笑顔を見せてきたから、本当は家でのんびして彼女とあれやこれやとイチャイチャしたいと思ったおれの心中は黙っておこうと思った。 「え?知らないの?ピーマンの花言葉は"海の恵み"だよ。」 「花言葉?」 「そう。野菜だって最初は花が咲くでしょ?だから花言葉があるんだよ。」 へぇーと、防波堤に置かれた1つのピーマンに目をやった。なんであの緑の野菜の花言葉が海の恵みなんだろうか。 それを聞くと彼女は、そこは知らないと言った。 ああほんとにこういうところが相変わらずだなと思う。 「そこ、気にならないわけ?」 「うーん、あんまり。」 「ふはは。ほんとお前って。」 結構どうでもいい、なんてあっさり言う彼女に思わず笑ってしまった。 調べ物が嫌いな彼女は物事についてあまり深く知りたがらない。知っていればいいことだけ知っていればいいと彼女はいつも言う。たしかに、ピーマンの花言葉の由来を知ったからって周りの誰れかに話すネタになるくらいで、彼女にとっては特に必要な情報ではないのかもしれない。写真撮るくらいならそれくらい知っててもいい気がするけど。
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