はじまり

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はじまり

 その日、世界は燃えた。 黄金の稲穂をたずさえ、空を閉じ込めた一人の母の手によって、醜くも美しかった地球は終わりを迎えた。 誰が予想したであろう。たった一つの愛のために、世界の秩序が崩壊するなど。 塵となった正義と悪。踏みにじられた愛情。地球には代わりに、無知が蔓延った。  その日、世界は終焉を目撃した。それが全ての始まりだと知りもせず、人々はただ、流れ落ちる涙を拭うに徹しただけであった。 しかし、その有様を誰が責められよう。政治家も、スポーツマンも、コメディアンも、作家も、無職も、会社員も、母も、父も、娘も、息子も。皆一様に同じ方向を向き、絶望に暮れていただけなのだから。唯一目を瞑っていられたのは、赤ん坊くらいのものだ。  人の繁栄は崩れ落ちた。 涙と僅かな希望を抱き、光は天へ駆け上った。輝かしい凱旋と栄光をその肩に背負い、喧騒の幸福を讃えながら。 人々の慟哭をも飲み込み、闇は深く地に染み込んだ。全ての罪をその身に受け、静寂に塗れて。  これは、人類が最後に残した日記に描かれた、世界の形。  人類の、我々の存在の証だ。
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