floword

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 その日その猫の助けてやったのはただの気まぐれだった。後ろ足の片方を怪我して不格好に歩くそいつを見て居ても立っても居られなかった。実際に治療したのは動物病院の先生だが、そこまで連れて行ったのは俺だ。それを思ってか、どうやらその猫は俺に恩義を感じたらしい。次の日、俺が家を出ると玄関先に一輪の花があった。誰にも汚されてはいない綺麗な花で分かる人なら一目で何の花か当ててしまえるほど形を保っていた。少し先の塀に昨日の猫と手当てした包帯の位置まで同じ様相な猫が居座る。  「これ、お前が取ってきたのか?」  俺は地面に添えられた花を拾う。猫は俺の方をじっと見て動かない。  「俺にくれるのか?」  猫は何も言わずただ俺のことを見つめる。バッ。もう用は済んだ、と言わんばかりに猫はその場から去った。  その日の午後、会う約束をしていた友人にその話をすると友人は笑って言った。  「そりゃあ面白い話だな。気になる女にでも話したら、盛り上がるんじゃねーか。まさに『猫の恩返し』。」  友人の様子からするにあまり真に受けてはいないようだ。  「で、その花はどうしたんだよ?まさか、捨てるってこたーねーよな。」  俺は聞かれたことに答える。  「ああ、まあ、一応飾ってるよ。随分と綺麗な花だったし、丁度いい花瓶が余ってたから。」  「ほう、大事にしてるってわけだ。ところで、その花ってのは何ていう花だったんだ?もちろん、調べたりしただろう?」  友人が食い気味に質問を繰り返す。  「ああ、どうやら『ポピー』って花らしい。花に詳しい友達にも見てもらったから間違いない。」  「ほう、それで花の色は?」  聞いた割には俺の方ではなくスマホとにらめっこをする友人の質問に仕方なく回答してやる。  「赤色だよ、赤色。そんなこと聞いてどうするんだ?」  「調べてたんだよ、どんな花なのかってな。ほら。」  そう言って友人はさっきまで食い入るように見ていたスマホの画面を俺に軽く見せる。  「それだよ。その花が置いてあったんだ。」  俺の言葉に耳も貸さず、友人は話し始めた。  「情報によると『赤色のポピー』ってのは「慰め」とか「感謝」って花言葉らしいぜ。」  「ああ、そう。」  一人で勝手に話を展開する友人においていかれた俺はとりあえず返事だけ返す。  「「感謝」か。もしかしたら、その猫は『赤色のポピー』の花言葉を知っててお前に送ったのかもな。流石にそれは出来過ぎた御伽噺(おとぎばなし)か。」  俺の適当な返事にも気づかない友人は楽しそうに笑っていた。
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