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俺が一番驚いたのはその次の日だった。その日は通う大学へレポートを提出しに出掛ける必要があった。今朝まで書いていたレポートを鞄に仕舞って、身だしなみを整え、玄関を開けた。
「ニャー。」
足元から小さく可愛らしい声が聞こえた。声の聞こえる方へ視線を落とす。
そこには見覚えのある毛むくじゃらの訪問者がいた。
「どうした?また来たのか?」
俺はその小さな体をそっと持ち上げる。猫は野良だとは思えないほどすんなりと俺の腕に収まる。包帯の巻かれた猫の足を気にして見ていると、それを嫌がったのか俺の元からするりと抜けて地面に足を着いた。歩く猫を追いかけてもう一度玄関先に目をやると、そこにはまた一輪の花が供えられていた。猫が鳴く。
「また、持ってきてくれたのか?」
俺はその花を大事に拾う。
「ありがとな。昨日の花と合わせて飾らせてもらうわ。」
俺は通じてるのかも分からないお礼を言う。
「今度は何ていう花なんだろうな。」
俺は花を見つめて独り呟く。
「ニャー。」
返事をするように猫が鳴いた。昨日は颯爽と帰った猫が姿を消すことなく、そこに居座っていた。一体どうしたというのだろう。
「教えてくれてるのか?」
当然、ネコからの応答はない。
「んー。そうだ、昨日の残った魚が冷蔵庫にあった。腹減ってるなら、それ食べるか?猫が食べれる物はよく分からないけど、魚なら食うだろ。」
猫は変わらず何を言うことは無かったが、スッと歩を進めて玄関の扉を抜けて家の中へ入ってきた。
その後、俺は深皿に載せた焼き魚の切り身を玄関の端にちょこんと間借りする猫に与えた。本当にお腹が減っていたらしく、ものの数分で皿を平らげてしまった。食事を終えた猫を少しの間愛でているうちに、俺はその猫が気に入ってしまった。猫が野外に消えてしまった後で、俺は次の来訪用にペットショップへキャットフードを買いに行った。
次の日、提出するつもりだったレポートを持っていくとは締め切りを過ぎて受付終了となっていた。慈悲はないらしい。
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