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それから数日間、猫は現れたり現れなかったりした。一週間も来なかった時はもう現れることはないのかと思いもした。今は定期的に姿を見せるから、猫の拠り所の一つにされているのかもしれない。その猫は飯を集りにきたり、ふらっと立ち寄ったりするが、花を持ってくる習慣は変わらなかった。来るときには必ず一輪の花を咥えて持ってきた。綺麗な花だから、定期的に花瓶
に飾る花を入れ替えた。
そんなある日、また猫が俺の家を訪れた。また玄関先に花が置かれている。いつものことだから、俺は自然とそれを拾い上げて猫を連れ家の中に戻ろうと思ったところで立ち止まった。
「そういえばお前、こんな綺麗な花どこから持ってくるんだ?」
花から猫に視線を移す。
「ニャー。」
猫にとってはそんなことよりもご飯が大事なようだ。
俺はその日、猫の跡を追ってみることにした。猫は後ろを着いてくる俺のことを気に留めることなく、堂々としている。俺の家の前にある塀の上を歩き、公園を抜け、車の通れない路地を進む。どんどんと細くなっていく路地を俺はついていくのが難しくなる。遂には、登った塀からスタスタと一軒家の間を歩いてその姿が見えなくなってしまった。
「うーん、流石にこれ以上は追えそうにないな。」
見失った近くを軽く見渡しても痕跡一つ見つけられなかった俺は諦めて帰路につく。周辺にはお店が並んでいて、商店街の方まで来てしまっていたことに気づいた。
「随分と遠くまで来てたんだな。」
せっかくだから俺は遠回りでも商店街の中を通り抜けて帰ることにした。スーパーマーケット、肉屋、文房具店、他にも様々な店舗が並ぶ。
「ニャー。」
遠くの方から微かに猫の鳴き声が聞こえた。その声の鳴る方へふらっと歩く。そこには野外に沢山の花の苗が並べられた花屋が営業していた。
「その猫。」
先程まで追っていた猫を抱えたエプソン姿の女性店員に声をかける。突然話しかけた俺のことを不思議がったその人は少し俺の様子を伺うような顔をしたが、すぐに笑って話してくれた。
「この猫ですか?撫でます?飼ってる猫ではないんですが、人懐っこくてよく遊びに来るんですよ。」
抱えた猫を俺に向けて差し出してくれる。俺が何の反応も出来ずにいると彼女は差し出した腕を引っ込めてしまった。それと同時に彼女の腕から猫が花に向かって手を伸ばした。
「この猫、花が好きみたいなんです。変ですよね。」
彼女は変わらず笑顔で話をしてくれる。
「よく花の匂いを嗅いでるんですよ。本当に好きみたいで、売り物にならなくなった花をあげると咥えてどこかへ持っていっちゃうんです。一体どこに集めてるんですかね?」
終始、愛想のいい彼女はとてもできた店員さんだった。
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